インタビュー適応策Vol.4 徳島県

「千年サンゴ」の保全を通して地域の未来をつくる

千年サンゴ

徳島県・牟岐大島の内湾海底に、「千年サンゴ」と呼ばれ、地域の人々に親しまれている巨大なコブハマサンゴが存在します。近年、オニヒトデ等が大量発生し、周辺サンゴに被害がおよんだことで、地域一体となった保全活動が始まりました。2015年、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の『プロジェクト未来遺産』にも登録されたこの取り組みについて、『千年サンゴと活きるまちづくり協議会』の浅香新八郎さんにうかがいました。

千年サンゴの写真

写真:千年サンゴと活きるまちづくり協議会提供

オニヒトデの大量発生で千年サンゴに食害の危機

千年サンゴ(千年サンゴと活きるまちづくり協議会HPより)

大島は牟岐町の沖合約4㎞に浮かぶ周囲約9.5㎞の無人島です。ここに大きなサンゴがあるのは知られていましたが、水深約23mの海底に生息していることもあり、正体は明らかにされていませんでした。2007年、このサンゴを町おこしのシンボルに使おうということになり、あらためて大きさを測ってみたところ、高さ約9m、外周約30mと世界最大級で、コブハマサンゴの平均生育速度から考えて千年以上生き続けていることが判明しました。そこで私たちは「千年サンゴ」という愛称をつけ、翌年、地元住民による町おこしの団体『牟岐千年サンゴの発掘隊』(以下発掘隊)を結成しました。

ところが2009年2月に行った周辺調査で、わずか10分ほどの間に12匹を超えるオニヒトデが確認されました。 千年サンゴは無事でしたが、周辺サンゴの50%以上が食い荒らされていたのです。発掘隊は急きょ「保全活動チーム」をつくり、翌月、私の所属するNPO『カイフネイチャー・ネットワーク』とボランティアダイバーさんとで保全活動を開始。2010年11月までの計7回の活動で、約1,600匹のオニヒトデを捕獲しました。さらに2010年6月の調査時には、新たにクチムラサキサンゴヤドリなどのサンゴ食巻貝の繁殖も確認されたため、以降はオニヒトデと合わせて定期的に駆除を行っています。

サンゴが私たちにもたらす恵みは、観光資源にとどまりません。二酸化炭素を吸収し、酸素をつくり出してくれていますし*、多くの生き物に栄養や住処を提供し、そこが人間にとって重要な漁場になります。海を浄化する働きもあり、天然の防波堤の役目もします。千年サンゴを守ることは、豊かな地球環境を次世代に受け継いでいくことだと、私たちは考えました。そこで、地域住民と市民団体、行政が一体となって保全活動をし、それをPRすることで地域活性化につなげようと、2011年『千年サンゴと活きるまちづくり協議会』(以下協議会)を設立しました。

サンゴを食べるオニヒトデやサンゴ食巻貝を駆除する保全活動(千年サンゴと活きるまちづくり協議会HPより)

オニヒトデ駆除。オニヒトデは全身が、有毒のトゲで覆われているため必ず2人1組で作業にあたる。
写真:千年サンゴと活きるまちづくり協議会提供

サンゴ食巻貝(千年サンゴと活きるまちづくり協議会HPより)

クチムラサキサンゴヤドリ。
大きさは1.5~3㎝ほどだが、集団でサンゴに被害を与える。
写真:千年サンゴと活きるまちづくり協議会提供

※サンゴは体内に「褐虫藻」と呼ばれる植物プランクトンを共生させており、それらが行う光合成により二酸化炭素を吸収し、酸素を供給している。

オニヒトデを越冬させた海水温の上昇

協議会では、活動資金を支援いただくサポーター制度や、活動に賛同する県内外からのボランティアダイバーさんの受け入れ体制を設け、年4回~12回の保全活動を行ってきました。これまで駆除したオニヒトデは3,200匹以上、サンゴ食巻貝は35,000匹以上にものぼり、その結果、オニヒトデの年間捕獲数は開始当初の1,187匹から2014年には7匹まで激減し、2016年ついに0になりました。一方、サンゴ食巻貝は昨年で200匹とだいぶ減ってはいるものの、まだまだ油断ならない状況です。オニヒトデと合わせて、今後も継続的に活動していくつもりです。
浅香新八郎さん
資料の写真
オニヒトデは、日本では主に南西諸島に生息しています。これまでも黒潮にのってあがってきた個体がたまに見られましたが、気にはなるほどではありませんでした。これは、オニヒトデが15℃以上の水温でないと活動できず、この付近の海域では越冬できないためです。2009年前後の冬は、水温が下がらず越冬が可能となったことが大量発生の原因だと考えられています。

東海沖 東海沖の四季別海域平均水温 (統計期間 1902 ~ 2016年)

四国・東海沖の上昇率は、世界全体や北太平洋全体で平均した海面水温の上昇率の2倍以上大きく、冬季の上昇率が最も大きい。

水温グラフ

「奇跡の遺産」を次世代へとつなぐ

千年サンゴが千年も生き続けられた理由は、かなり特殊な環境のもとで生育できたことにあります。1つめは、大島の湾が北向きのため、台風や時化による南からの波風を完全に防いでくれたこと。2つめは、黒潮由来の暖かい海水と紀伊水道からの栄養分の豊かな海水が流入し、多様な生き物が生育できる環境にあったこと。3つめは、島が開発されず環境破壊がなかったこと。千年サンゴは、これらの好条件が重なっておきた「奇跡の遺産」です。

大島の湾

牟岐大島内湾
写真:千年サンゴと活きるまちづくり協議会提供

千年サンゴと地元の子供たち

(上)子どもサンゴ。1mに成長するまで100年かかるといわれる。
(下)地元小学生のダイバー育成
写真:千年サンゴと活きるまちづくり協議会提供

現在、国内外で海面水温の上昇による大規模な白化被害がおこっていますが、千年サンゴは水深の深い場所で生息しているため、これらの影響は受けにくいと考えられています。ただ、今回の食害被害のように、気候変動の影響がどんな形で表れてくるかわかりませんので、今後も活動の手は緩められません。

最近、千年サンゴ周辺の環境調査で、1mほどの「子サンゴ」が複数見つかりました。「子サンゴ」の成長を継続的に調査することで、大島内湾の海中環境がわかるようになり、今後の環境変化も察知できるのではと期待しています。また、千年サンゴに近い浅瀬では、シュノーケリングでもたくさんの生きものを観察できるので、地元の子どもたちに見せてあげています。いつか、この子たちが海を守る活動に加わってくれるといいなと思いながら。

この記事は2017年8月4日の取材に基づいて書いています。
(2018年2月22日掲載)

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