都市型水害から街を守る下水道
適応策Vol.9 神奈川県横浜市

都市型水害に強いまちづくり
~下水道整備の新たなステージへ~

首都圏有数のターミナル駅である横浜駅周辺は多くの商業施設が集積している横浜の玄関口ですが、2004年10月の台風22号による豪雨では地下施設が一部水没するなど甚大な浸水被害が生じました。このため横浜市は「エキサイトよこはま22(横浜駅周辺大改造計画)」に基づき、台風22号と同レベルの時間降雨量74㎜(1時間当たり約74㎜の降雨)でも、横浜駅周辺に大きな浸水被害が生じないよう雨水幹線などの整備に乗り出しました(時間降雨量74㎜は、30年に一度程度の降雨=30年確率降雨=とされる)。さらに2017年、横浜駅を中心とする「エキサイトよこはま22センターゾーン」が全国で初めて「浸水被害対策区域」に指定され、将来的には民間事業者の雨水貯留施設整備により時間降雨量82㎜(50年確率降雨)にも耐えられる都市づくりを目指します。気候変動を背景に集中豪雨が列島各地で多発している中、都市型水害への先進的取り組みとして注目を集めています。下水道整備は長期的な展望に基づいて巨額の費用をかけ、地域住民の合意を得ながら取り組む大事業。横浜市環境創造局下水道計画調整部下水道事業マネジメント課の村上英明さん、箱田涼さんに街と市民を水害から守るための取り組みと決意をうかがいました。

長大な雨水幹線で横浜スタジアム1・3杯分も貯留

――まずは都市型水害から街を守る下水道の役割について教えてください。都市型水害には下水道の排水能力が追い付かず雨水があふれる「内水氾濫」と河川から溢水する「外水氾濫」がありますが、内水氾濫対策として横浜市は下水道整備をどのように進めていますか。

下水道は主に2つの目的で整備されています。1つは汚水を処理場まで流すためで、横浜市内の下水道処理人口普及率はほぼ100%となっています。もう1つは大雨の時に雨水を海や川に放流したり貯留するなどして、街を浸水から守る目的です。一般的に言って、下水が古くから整備されている地域では同じ下水管で汚水と雨水を一緒に流す合流式で整備されており、新しく整備されている地域では基本的に別々の下水管で流す分流式で整備されています。

近年の大規模な内水氾濫対策として、豪雨時に雨水を貯留する「新羽(にっぱ)末広幹線」が2011年度に供用開始されています(総事業費約1000億円)。浸水被害に悩まされていた鶴見川下流域などの低地を守ることができるようになり、時間降雨量50㎜(5年確率降雨)から60㎜(10年確率降雨)に対応できるようになりました。

地中深くに埋め込まれた新羽末広幹線は総延長約20㎞、一番太い部分は8.5mもあり“クジラ”もすっぽり入ります。一部をポンプで海に排水しながら貯留しますが、その貯留能力は横浜スタジアム約1.3杯分の41万㎥にもなります。2014年10月の台風18号による豪雨の際にも、新羽末広幹線が約38万㎥を貯留し、他の雨水調整池なども含めて計約74万9000㎥を貯留、浸水被害軽減に大きな効果を発揮しました。

ただし、雨水の目標整備水準を市内全域で時間降雨量60㎜としていますが、高地で自然に流下して排水できる地域は時間降雨量50㎜を当面の目標として整備を進めています。

新羽末広幹線

横浜駅周辺地域、30年に一度の豪雨にも対応

――横浜駅を中心としたエキサイトよこはま22を時間降雨量74㎜(30年確率降雨)対応としたのはなぜですか。そのためにはどのように取り組みますか。

JR東海道線、相鉄線など6社9路線が乗り入れている横浜駅は一日約200万人が利用する横浜の玄関口。駅に近接して商業ビルなどが立ち並び、地下街もにぎわっています。横浜駅近くを帷子(かたびら)川が流れて水が集まりやすい地形となっており、2004年10月の台風22号では駅周辺で床上・床下浸水が190件発生し、あふれた雨水がビルの地下に流入するなど大きな被害が生じました。そのため、横浜駅一帯を大規模に再開発する「エキサイトよこはま22」(2009年策定)では河川、下水道、まちづくりが連携して内水の安全対策を進めていくこととしています。台風22号では時間最大76.5㎜の大雨が降った(同市消防局野庭消防出張所で観測)ことから、エキサイトよこはま22のエリア(約140㏊)において、時間降雨量74㎜にも耐えられるよう整備することにしたのです。

そのために、横浜駅周辺雨水幹線(仮称)と東高島ポンプ場を新設します。いずれも2020年度に着工し、2030年度に供用開始の予定です。新たな雨水幹線は延長約4.8㎞、内径3.75m。深さ60mを掘るシールド工法で工事を進め、総事業費は410億円を見込んでいます。

また、横浜駅周辺には雨水を川に排出するポンプ場が5カ所ありますが、1970年供用開始のものもあり老朽化対策が必要です。いずれも駅周辺にあり、再構築のための新たな用地の確保が困難なことから、 新たな雨水幹線を活用し、現在の雨水排水能力を低下することなく更新を進めていきます。

時間降雨60㎜までは既存の5カ所のポンプ場から排水、それを上回る分は新雨水幹線に流入させ、東高島ポンプ場から排水することにしています。これ以外のエキサイトよこはま22の浸水対策としては国、県、事業者と協力して、河川改修、地盤のかさ上げ、地下街入口への止水板設置などがあります。

――市としては74㎜対応ですが、民間事業者の協力で将来的に82㎜対応を目指すのですね。浸水被害対策区域指定でどんなメリットがあるのですか。

浸水被害対策区域とは、民間事業者と連携して局地的な集中豪雨による浸水対策を進める必要がある区域です。2015年に改正された下水道法に基づき、エキサイトよこはま22センターゾーンが2017年に全国で初めて指定されました。この指定で、民間事業者が雨水貯留施設などを整備する際に国の補助が活用できるようになりました。

エキサイトよこはま22のまちづくりガイドラインでは「センターゾーンの大規模開発(敷地面積5000㎡以上)において、建物敷地内に雨水貯留施設の設置」を基本ルールとして定めています。その第1号として、西口に建設中の高層ビル地下に約170㎥の貯留施設を整備しています。対象となる貯留施設に対して、国と自治体(横浜市)がそれぞれ3分の1の補助金を出すことで、事業者の負担は3分の1で済みます。大雨の際には雨水をこの施設に貯留し、水害の危険が去ってから下水道に放流する。こうした対策などにより時間82㎜レベルの豪雨に対しても街を水害から守ります。

公助に加え自助、共助にも期待

――近年は時間100㎜レベルの豪雨が各地を襲っています。死者・不明者74人を出した広島豪雨災害(2014年8月)、鬼怒川の堤防が決壊した関東・東北豪雨(2015年9月)、九州北部豪雨では死者・不明41人を出す(2017年7月)など大災害が続いています。想定外の集中豪雨への備えについてはどうお考えですか。

横浜市の地形は、丘陵地や台地、多くの河川に囲まれた低地、そして沿岸部からなっています。丘陵地では宅地開発が進んで農地や林が失われることで遊水・保水機能が低下、大雨が降ると低地部に急激に水が流入するようになってきました。一方で河川改修や下水道整備によって治水安全度は大きく向上し、過去には浸水被害が起きていたような豪雨にも対応できるようになりました。しかし、近年は気候変動を背景に集中豪雨の発生頻度が増加。国土交通省によると、時間50㎜以上の集中豪雨の発生件数は1976~1988年は平均年176回、1989~2000年は同202回、2001~2012年は同229回と長期的にみて増えています。今後は想定を超える規模の台風や集中豪雨が襲来することも考えて、都市型大水害へのさらなる備えが欠かせなくなっています。

市は下水道の排水能力を超える豪雨(時間最大76.5㎜)が降った場合に、浸水が想定される区域を示した「内水ハザードマップ」を18の行政区ごとに作成しました。想定される浸水深ごとに色分けして表示、市民に日ごろからの備えやいざという時の対応を呼びかけています。

――2004年の横浜駅西口水害では地下にも浸水しました。地下街の浸水対策は。

地下街へ浸水すると、大量の雨水が一気に流れ込み、限られた空間である地下では短時間に天井近くまで水が達する危険性があります。電気設備に浸水すると停電して照明が消え、エスカレーターが動かなくなって階段を上がるしかなくなります。また地下街にいると風雨などの状況が伝わりにくく、避難が遅れてしまう恐れもあります。2004年の浸水時には市西消防署のダイバーが地下店舗で逃げ遅れた客がいないか捜索、安全を確認したほどです。

地下街管理者によって地下街出入り口に止水板が設置されるなど浸水対策が進められていますが、市として「水位周知下水道」の導入に向けた検討も進めています。下水道の水位が危険なレベルまで達した時に、地下街の管理者・防災担当者らに情報を伝える制度で、2015年の水防法改正で導入されました。下水道の水位情報を伝えることで、水防活動に活用してもらうものです。2017年12月に横浜駅西口4カ所のマンホール内に水位計を設置、水位の計測を始めました。水位データの蓄積、計測機器の精度や設置個所の妥当性などを検証していて、効果的に周知できるように検討を進めています。

――雨水浸透ます普及に補助金を出していますね。C40(世界大都市気候先導グループ)でも注目されたそうですが…。

雨水浸透ますは、地下水涵養と雨水の流出抑制が目的です。以前は、例えば100の雨が降ったら、50が地中に浸透し50が流出していましたが、宅地化や舗装などによって今は25しか浸透せず75が表面を流れるようになりました。雨水浸透ますは、ますの側面や底部に穴が空いており、ますに集まった雨水が地中に浸透するものです。個人宅への新設では1万5000円(150㎜内径の場合)を助成しています。ただ地下水の多い場所や急斜面など設置に適さない場所もあり、そうした情報を「浸透施設設置判断マップ」として公表しています。

C40は世界の大都市が連携して地球温暖化問題に対処しようというネットワークで、日本では横浜市と東京都が参加しています。2017年1月にアラブ首長国連邦・ドバイで開催されたC40の分科会で、雨水浸水ますの取り組みを発表したところ、参加都市から市民参加の取り組みとして高い評価を得ました。

――下水道事業の難しいところはどんなところですか。

財源に限りがある中で下水道の整備水準を市内全域で時間降雨74㎜対応にすれば、費用も時間も考えられないほどかかってしまう。どの程度の集中豪雨がどの辺りに降るかの予測は非常に困難です。過去の浸水実績だけでなく、浸水シミュレーションの採用も検討しています。

浸水対策や防災情報の発信など「公助」の取り組みを今後も促進していくだけでなく、自らの身を守る「自助」、地域で助け合う「共助」もさまざまな主体と連携して取り組んでいきます。都市化と気候変動が進む中、下水という普段は目に見えないものだけに市民の協力が必要です。大雨の時には風呂の水を流さないとか、土のうを用意するなど市民に備えていただくことが大切です。私たちも小学校での出前講座で、内水ハザードマップなどを使い、日ごろからの備えや大雨時の注意点などを説明しています。

ある治水イベントで、鶴見川下流域の人に「昔は会社が終わると机の引き出しを全部上げて帰っていたほど浸水が度々あった。(新羽末広幹線の完成で)そうした必要がなくなった」と感謝されました。浸水常襲地域解消のお役にたてた、この仕事をやっていて良かったと実感しました。

この記事は2018年1月24日の取材に基づいて書いています。
(2018年4月18日掲載)
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