適応計画Vol.3 神奈川県横浜市
国際的視野で気候変動に適応した安全・安心な都市を目指す(神奈川県横浜市)

気候変動の影響への適応策に国や他の自治体に先駆けて取り組んでいるのが横浜市です。2014年3月、「横浜市地球温暖化対策実行計画」を改定して適応策の推進を打ち出し、2017年6月には「横浜市気候変動適応方針」を策定しました。適応方針では「市民の生命・財産を守る施策の推進」など5つの基本戦略を掲げ、気候変動の影響を市民に分かりやすいよう4分野にまとめました。市の各分野の施策に適応の観点を組み込みながら分野横断的に取り組んでおり、「安全・安心で持続可能な都市・横浜」を目指しています。実行計画の改定から適応方針の策定までの道のりと、地域の実情に合わせた“横浜らしさ”の追求、そして今後の方向性について、横浜市温暖化対策統括本部調整課の冨田翼さんと大嶋健太郎さんにうかがいました。

適応策の推進、IPCC総会の横浜開催が契機

冨田さん

――横浜市が2014年に国や他の自治体に先駆けて実行計画を改定し、適応策の推進を打ち出したのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

この年の3月に適応を主要な議題とするIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第38回総会が、横浜で開催されたことがきっかけです。日本では初めての開催で、主に適応に関する最新の科学的知見をとりまとめた第5次評価報告書の第2作業部会報告書が承認されました。開催決定を機に、横浜市がそれまで行ってきた適応に関する対策・施策を整理し、実行計画を改定して新たに適応策を位置付けました。具体的には▽熱中症の防止・軽減、▽豪雨被害の防止・軽減、▽市民と連携したモニタリングの推進――に取り組むこととしました。

こうした機敏な動きができたのは、全国の自治体で唯一、「温暖化対策統括本部」という局相当の組織を2011年に立ち上げるなど、温暖化対策に早くから全庁的に取り組んできたためです。2014年の時点で適応策を位置づけて推進していた自治体は、都道府県レベルではいくつかありましたが、市町村レベルでは一番早かったのではないかと認識しています。

――実行計画の改定に続いて適応方針を2017年6月に策定しましたが、どんな内容になっていますか。

適応方針は、実行計画で位置付けた適応策よりも広範囲な分野を対象にするとともに、影響や対策についてより深く検討しています。適応方針は、▽策定の背景、▽基本的事項、▽分野別の影響・施策の方針、▽分野を横断した施策の方針――の4章で構成し、参考資料を添付しています。

策定の背景として、気候変動の影響と考えられる国内外での大規模な災害の発生や、国際社会や国の動向などを記載しています。また、横浜の年平均気温が過去100年間で約1.8℃上昇したこと、現在から21世紀末ごろまでにおおむね3℃程度上昇し、真夏日は年間で40日程度増加することなどの気象庁のデータを引用しています。そうした気候変動の影響に対応し、被害を回避・最小化するために5つの基本戦略を掲げ、市民・事業者・行政の各主体が相互に連携・協働して取り組んでいくこととしました。分野別の影響・施策では、国が影響評価を行った7つの分野と各項目に沿い、横浜市に影響のある項目を選定し、▽農業・自然環境、▽風水害・土砂災害など、▽熱中症・感染症など、▽産業・経済活動――の4分野に整理しました。農業・自然環境はさらに農業、水環境・水資源、自然生態系に小分類しています。分野を横断した施策では、▽気候変動に関するモニタリングの推進、▽市民・事業者の取り組み促進、▽国内外の都市間連携の推進――をあげています。

基本戦略で“横浜らしさ”を打ち出す

――適応方針について、横浜市ならでの特徴的な内容を教えてください。

基本的事項で5つの基本戦略を設定したのが一番の特徴です。「安全・安心で持続可能な都市・横浜」の実現を目指し、横浜らしさを出しながら、どういう視点で何に力を入れて取り組んでいくかを市民に分かりやすくなるように心がけました。5つの基本戦略は、①市民の生命・財産を守る施策の推進、②都市のレジリエンス(強靭性)の向上、③施策における適応の観点の組み込み、④適応策推進による環境と経済の好循環、⑤国内外の都市間連携の推進――です。

横浜は人口373万人の大都市であり、自助・共助・公助の考えのもとに市民・事業者・行政が連携して取り組むことが重要です。レジリエンス(強靭性)の向上のためには、都市機能が集中しており海抜が低い横浜駅周辺で、特に防災機能を強化する必要があります。都市間連携では、首都圏で広域的課題に取り組む九都県市首脳会議の各自治体などとの協力を進めます。また、国際都市として、C40(世界大都市気候先導グループ)やイクレイ(持続可能性をめざす自治体協議会)などの国際的ネットワークを活用し、情報共有や協力を推進します。このように、適応方針では横浜らしさを出せたのではないかと思っています。

――市民や事業者と連携した取り組みでは、市民への働きかけをどう進めますか。

まず市民に“適応”の重要性を知ってもらうことが大切です。適応方針の策定に向けて2016年に市民と事業者を対象にアンケート調査をしました。適応という言葉を知っている人が52%、うち意味も含めて知っていた人が21%でした。同時期に国が行った世論調査では、適応を知っていた人は48%ですが、内容まで知っていた人は4%で、横浜市民の関心は高いと思いました。

もともと防災対策や熱中症対策などはこれまでも取り組んでいました。そこにどうやって適応という観点を入れていくかが重要です。これまで分野ごとに行っていた施策に、適応方針を踏まえて適応の観点を組み込み、より効果的に情報発信や普及啓発を行うことで、市民の理解を深めるようにしていきます。

――国は気候変動による影響を7分類していますが、横浜市は4分野にまとめています。影響評価はどのように行いましたか。

市民・事業者にできるだけ分かりやすいようにという姿勢で影響評価や分野の整理を行いました。国が影響評価を行った7分野(農業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活)と各項目に沿って、現在の影響や将来予測される影響について、庁内所管部署と協議の上、横浜市に影響のある項目を選定しました。各所管部署には国や国立環境研究所などの情報を提供し、各所管部署が持っている専門的な情報を加味して評価してもらいました。

例えば国は農業、水環境・水資源、自然生態系の3分野に分けているのを横浜市は農業・自然環境でまとめました。大消費地に近接した横浜市の農業生産額は神奈川県内トップクラスで、特にコマツナは全国1位です。高温障害による品質低下の影響などが一部、懸念されています。また、国の健康の分野は暑熱・感染症・その他(大気汚染など)と幅広いのですが、市民に身近な熱中症・感染症などとしました。

――国際的な都市間連携としては、具体的にどんな取り組みをしていますか。

姉妹都市であるカナダのバンクーバー市は環境の先進自治体で、すでに適応戦略を策定していました。横浜市の適応方針をレビュー(評価)してもらったところ、「構成が良い。図表を使えばもっと分かりやすくなるのでは」というアドバイスをいただきました。また、横浜市は東京都とともに、世界の大都市が連携して気候変動に取り組んでいるC40に参加しています。2017年にアラブ首長国連邦のドバイ市で開催された会議では、浸水対策や暑熱対策などの適応策に関する各都市の取り組みの紹介などが行われ、横浜市が発表した浸水対策にも反響がありました。

施策全般に温暖化対策(緩和策、適応策)の観点を

大嶋さん――横浜市の施策で、地球温暖化対策(緩和策と適応策)はどのような位置づけですか。適応方針策定の際に、その他の計画(都市計画マスタープラン、防災計画など)を考慮しましたか。

横浜市の温暖化対策は実行計画で整理しており、この計画は市の総合計画(中期4か年計画)や環境管理計画、都市計画マスタープランなど多くの関連計画と連動しています。例えば、中期4か年計画のうち温暖化対策の内容については、実行計画の内容と連動しており、適応策も記載しています。現在、実行計画の改定作業に取り組んでおり、適応方針をどう盛り込むかを検討しています。具体的には2018年秋ごろの改定を目指して、進捗管理の指標の設定やグリーンインフラ(自然の生態系が有する防災や景観形成などのさまざまな機能)を活用した浸水対策の推進などを論議しています。

適応方針では、市が各分野で進めている施策を中心に、適応の観点から横断的に取りまとめ、実行計画で位置づけた適応策よりも広範な分野を対象にしています。適応方針の策定にあたっては、各分野における関連計画とも整合を図りながら取りまとめました。今後も気候変動に関わりが深い施策については緩和や適応の観点を加えて推進するとともに、各分野における関連計画の策定・改定時に反映していきます。

左:大嶋さん、右:冨田さん

――緩和策であり、適応策でもあるという例はありますか。

横浜市は民間企業と協力して「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」の一環として、緩和策である仮想の発電所(VPP)やデマンドレスポンス(DR)の実証実験などに取り組んでいます。DRは電力のひっ迫が予想される場合に電力会社からの要請を受けるなどして、需要家側が電力消費量を抑制・調整する仕組みです。VPPは地域に設置した多くの蓄電池を統合制御することで1つの発電所のように使う新しい仕組みで、平常時にはDRとして活用し、集中豪雨による都市型水害時には非常用電力として使用することが可能です。そのため、横浜市は2016、2017年度で地域防災拠点に指定されている市内小中学校計36校に蓄電池設備を設置しました。

こうした取り組みは、気候変動によって将来気温の上昇が続き、適応策としての冷房使用における電力需要がより増加する際などにエネルギー需給対策としても有効であると期待されます。

――適応方針の策定までに庁内的な手続きはどう進めましたか。また国や他の自治体の計画で参考にしたものはありましたか。

2016年8~12月に市役所全体の適応策の課長会を3回開催するなどして、策定を進めました。影響評価を各分野の所管部署と議論しながら進め、市の環境創造審議会の専門家たちにヒアリングするなどして2017年2月に素案を作成。市民意見募集を経て同年6月に適応方針を策定しました。他の自治体では庁内調整がかなり難しかったとの話も聞きますが、横浜市は比較的スムーズに進みました。背景として、温暖化対策に以前から積極的に取り組んでいたことと、実行計画の中で適応策をすでに位置付けていたことなどがあると思います。

適応方針の策定時には国の適応計画やガイドラインなどを参考にしており、特に影響評価や策定プロセスなどが参考になりました。また、神奈川県は地球温暖化対策計画で影響評価と施策をまとめており、横浜市も同じ区域であるため参考にしました。隣接している川崎市の適応方針や、これまで率先して取り組んできた埼玉県などの資料も参考にしました。

左:大嶋さん、右:冨田さん

――いままで一緒にお聞きしてきましたが、最後に適応方針の策定に取り組んでどうだったかを大嶋さん、冨田さんそれぞれにうかがいます。

大嶋さん:適応方針には横浜市の特徴がたくさん盛り込まれていると思います。策定作業を通じて鶴見川流域など市内に8流域もあることが分かるなど、改めて横浜市の地形や特徴を知ることができました。

冨田さん:国の分野や項目に沿って横浜市の施策を整理しましたが、どの項目でもおおむね何らかの施策に取り組んでいることが分かり、これほど適応に関する施策が多かったのかと改めて気付きました。

この記事は2018年1月24日の取材に基づいて書いています。
(2018年4月18日掲載)
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