適応計画Vol.7 静岡県

3つの統合的なアプローチで適応推進を促す

静岡県は2019年3月に気候変動適応法に基づき「静岡県の気候変動影響と適応取組方針」を策定しました。これに合わせて「静岡県気候変動適応センター」を静岡県環境衛生科学研究所に設置し、2019年6月にふじのくに地球環境史ミュージアムでの適応展示を開設しました。今回は静岡県環境政策課今橋美千代班長と守永泰寛主任、静岡県環境衛生科学研究所(静岡県気候変動適応センター)神谷貴文主査に話をうかがいました。

外部の知見を活用しながら、県全体で適応の機運を高める

―静岡県は2018年度に地域気候変動適応計画(以下、地域適応計画)を独自に策定し、地域気候変動適応センター(以下、地域適応センター)を設置しました。これまで先進的に取り組まれる経緯を教えてください。

守永さん:先進的という意識はありません。2014年度に本県の地球温暖化対策実行計画(区域施策編)を策定しましたが、この計画には、大まかな適応の概要と必要性を記載する程度でした。他都道府県の多くでは、既に区域施策編や環境基本計画に地域適応計画に相当する記載があり、むしろ後発として、他県の事例を参考にさせて頂きました。

策定経緯としては、2015年「気候変動適応計画」閣議決定など、近年の国内外の状況から、本県でも早期に適応に取り組む必要性があったことから、庁内横断的な勉強会を設け、全庁的に適応の認識を高めながら、準備を進めてきました。気候変動適応法の公布に関する事前情報を受け、本県区域施策編改定の時期を待たず、2018年度に地域適応計画を策定する方針を固めました。

―単独計画として位置付けられたのは静岡県が初めての試みでした。地域適応計画を策定されるなかで難しかった点、工夫された点などはありますか。

守永さん:2017年度に外部委託で県内の気候変動影響に関する文献調査を行いました。専門的な知見や他部局との関わりが少ないなかで、自治体担当者が分野横断的に影響情報を整理することは難しいです。そのため専門的な調査は外部に委託し、庁内関係者との調整等を環境政策課が担いました。また、2018年度の策定作業の当初から、国立環境研究所及び静岡地方気象台に、本県適応計画の内容について随時御意見を頂いています。このように、外部の皆様の専門的な知見をお借りしながら、内部の調整を図っていったのが、工夫した点かと思います。

一方、分野別影響評価や、適応策の評価は今後の課題です。国が定める「重大性」「緊急性」「確信度」という分類に応じた影響評価を地方自治体が行うことは容易ではありません。国の評価を引用するという方法もありますが、国の評価と地域の評価が必ずしも全て合致するわけではないので、本県の地域適応計画では評価を除いた情報整理を行いました。また、適応策に関する評価は世界的にも研究途上と聞いています。現在、国で検討を行っていますが、その結果をふまえながら、影響評価とあわせ、本県でも検討していくことになると思います。

今橋さん:関係者だけでなく県民の皆様に適応を伝えるには、緩和と適応をそれぞれ説明する必要があると思います。例えば、省エネ対策としてこれまで冷房の使用を控えるように推奨してきましたが、適応では熱中症対策としてエアコンの適切な利用を推進しています。一見すると逆行する取組と捉えられかねないので、緩和と適応のいずれの取組も推進するためには、効果のある普及啓発を考えなければいけません。私たちが将来を予測することは難しいですが、過去に起きた気象現象などを整理しながら、県民の皆様に分かりやすく伝えていきたいと思います。

―庁内の適応に関する予算措置はどのように行われたのでしょうか。

守永さん:2018年秋頃に翌年度の予算要求を行いました。気候変動適応法の成立を受けて、気候変動影響調査と地域気候変動適応センター設置、ミュージアムでの普及啓発という3本柱で要求し、調査とセンター設置経費について、認められました。また、予算化はできませんでしたが、要求時からの連携が功を奏し、ミュージアムの協力により適応展示を行うことができました。環境部局が適応に関する予算を獲得することは難しいですが、今後の適応策につながる調査、適応センターの機能確保、県民・事業者への普及啓発という総合的なアプローチが行うことができるようになったのは、適応推進に向け意義のあることと思っています。

神谷さん:地域適応センターの予算確保にあたっては環境政策課が積極的に動いて下さいました。設置母体は研究所ですが、予算措置や活動内容の検討には環境政策課との連携が不可欠です。また研究所としても、気候変動影響や適応に関する研究業務を行っています。それら具体的な業務についても行政担当者と密にコミュニケーションを取りながら実施していく予定です。

地域気候変動適応センターの新たな挑戦

―地域気候変動適応センターを設置後、これまでに問い合わせを受けることはありましたか。また、地域適応計画の策定や普及啓発などA-PLATを参考にされた事例があれば教えてください。

守永さん:他県から地域適応計画や地域適応センターに関する問い合わせは一段と増えました。電話で受けることが多いですが、実際に来て頂くこともあります。A-PLATの活用としては、温州みかんの栽培適地予測(環境省推進費S-8成果)を地域適応計画に記載しています。
また、パブリックコメントを募集する際に国立環境研究所からアドバイスをいただきました。人口や主要産業といった地域特性を盛り込んだ方が良いと指摘を受けて、世界遺産の富士山やユネスコパークの南アルプスなどについて記載しました。

神谷さん:地域適応センターを設置して、センターの役割や業務内容に関する問い合わせが増えています。また、県民や地域事業者向けに気候変動影響や適応に関する講演をする機会も増えており、A-PLATの全国都道府県情報のWebGISを活用しています。将来の影響予測データを地図上で視覚的に見せることができるので、一般の方にも分かりやすく説明できます。県には農業や水産など様々な試験研究機関があり、現場で起こっている様々な課題に取り組んでいます。私たちにとっては見慣れつつあるA-PLATの影響予測データですが、これらの情報は必ずしも関係する試験研究機関に行き渡っているというわけではありません。国立環境研究所と県内試験研究機関をつなぎ、気候変動の影響や適応に関する情報の相互提供、共有を図っていくという役割も地域適応センターが担っていくべきだと感じています。

―今年度は環境省「国民参加による気候変動情報収集・分析事業」を受託されていますね。どのような業務を検討されていますか。

神谷さん:今年度は県内の気候変動影響に関する情報を幅広く収集することを検討しています。例えば市民向けワークショップや農業・漁業組合等へのヒアリング、市街地の温湿度データの収集などを予定しています。収集したデータについてどこまでが気候変動の影響なのか、その判断が難しいと感じています。国立環境研究所の皆さんにこの点助言をいただきながら、業務に務めたいと思っています。

今橋さん:これまで夏に見かけるセミはアブラゼミがほとんどでした。ところが最近になってクマゼミを見かけることが増えています。これは気候変動による影響なのか、生物の分布域の拡大なのか、要因は定かではありません。市民から収集する情報のファクトチェックは、我々では難しい点も多いです。来年度に予定される国の影響評価やエキスパートジャッジなど、地方自治体も利用しやすい形で情報を提供いただけると助かります。

―今後の展望や適応をご担当されるやりがいは何でしょう。

神谷さん:地域の環境研究所がこれまで取り組んできた課題とは異なり、適応はアプローチが多様で模範解答がない分野と考えています。地方研究所として新たに気候変動適応に関する研究や影響調査などに取り組む中で、地域や分野を超えて多様な関係者と情報共有しながら業務を進めていくことにはやりがいを感じます。国立環境研究所ともしっかり連携を図りながら取り組んでいきたいです。

今橋さん:私が子供の頃、最高気温は32度程度でした。それが現代の子供たちは40度を超える暑さを当たり前のように体感しています。こうした個人の肌感覚は、以前に比べて確実に上昇しているということを、観測データなどを活用しながら普及啓発に努めていきたいです。

守永さん:パリ協定以後、世界的な温暖化対策は加速しています。一方で国内の問題意識の低さを指摘する声もあります。適応策だけでなく緩和策も含めて、我々の行動が次世代を担う子供たち世代の生活を左右すると考えています。そのような重要な時期に、環境政策課として携われることは非常に有難いと感じています。適応は分野が多岐にわたり複雑な面も多いですが、地方自治体が取り組むべき重要な課題です。今後さらに必要性は高まると思います。本県の取組はまだ始まったばかりですが、今後も試行錯誤を繰り返しながら、様々な挑戦をしていきたいと思います。

この記事は2019年7月11日の取材に基づいて書いています。
(2019年11月6日掲載)
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