成果報告 2-2

降水量の増加と社会経済状況の変化を考慮した都市圏の内水氾濫リスク評価

対象地域 関東地域
調査種別 先行調査
分野 自然災害・沿岸域
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※調査結果を活用される際には、各調査の「成果活用のチェックリスト」を必ず事前にご確認ください。

概要

「平成31年度地域適応コンソーシアム関東地域事業委託業務業務報告書」より抜粋

背景・目的

気候変動により内水被害に影響を及ぼす短時間雨量の増加が予測されている。例えば、埼玉県の低平地においても、近年内水被害が頻発している。

本調査では、埼玉県をモデルとして気候変動による影響と社会経済状況を考慮した内水リスクの評価と適応策に関する調査・検討を行った。

実施体制

本調査の実施者 パシフィックコンサルタンツ株式会社
アドバイザー 東京工業大学 教授 鼎 信次郎
実施体制
図 2-1 実施体制

実施スケジュール(実績)

平成29年度は、埼玉県内の内水被害に関する基礎情報を整理し、気候変動による外力変化と社会条件変化を踏まえたリスク評価の考え方を整理した。

平成30年度は、埼玉県内10市を抽出し、気候変動データを用いて降水量の変化、社会条件として人口予測を行い埼玉県内10市における内水氾濫リスクの変化を浸水状況と浸水リスク人口から評価した。

平成31年度は、内水氾濫リスクの変化を踏まえ、適応オプションとしてハード対策、及びソフト対策案を抽出し、対策の現状、実現可能性、効果などについて評価した。

表 2-1 実施スケジュール
実施スケジュール

気候シナリオ基本情報

本検討では詳細な現象である内水氾濫リスクを評価するため「空間解像度」を重視して「気象研究所2km力学的DSデータ」を用いた。

表 2-2 使用する気候パラメータに関する情報
項目 内水氾濫に影響を与える降水量の変化
気候シナリオ名 気象研究所2km力学的DSデータ
気候モデル MRI-NHRCM02
気候パラメータ 降水量(時間)
排出シナリオ RCP8.5
予測期間 21世紀末 時別
バイアス補正の有無

気候変動影響予測結果の概要

文献調査結果の概要
  • 埼玉県内の内水被害特性の把握を国土交通省の水害統計結果から行った。その結果、近年10年間(2006年~2015年)で内水被害が5件以上発生している自治体が19あり、県東部の低平地に多く見られた。
  • 県内の49市町で内水ハザードマップを作成している(2020年2月14日時点)。
  • 適応策の先進的な事例である内水排除ポンプの運用について、埼玉県内で取り組んでいる事例がある。
  • 土地利用規制・誘導による適応策案について、既往の対策事例から規制誘導、計画誘導、市場誘導等の考え方、参考とする法令などを把握できた。
ヒアリング調査結果の概要

(影響評価について)

  • 検討に用いる気候モデルについて、出力値の傾向をよく確認し、気候変動による現在と将来の気候に変化が現れているか等、確認を行うことが望ましいと意見をいただき、気候モデル出力値の傾向について、計画規模の降水量の発生頻度と雨量の増加傾向を埼玉県内の各出力値について確認し、気候変動の傾向が現れていることを確認した。
  • 人口の将来予測の活用として、気候変動による外力変化と将来人口の変化による影響を切り分けてわかりやすく説明できる資料とする必要があるとご意見をいただき、降水量の変化のみを与えた場合と降水量の変化及び人口予測を与えた場合の浸水リスク人口を算定し、その違いが分かるように整理した。
  • 浸水深等の数値の変化だけでなく、利便性、交通、死者の発生、生活に与える影響を説明できるような方法を検討していただきたいとご意見をいただき、浸水深毎が生活、避難に与える影響を整理した。

(適応オプションについて)

  • 流域で取り組む貯留施設による対応について、効果や実現性などを検討することが望ましいとご意見をいただき、効果や実現性の評価方法について埼玉県と協議調整を行った。
  • 住まい方の変化に関する適応策は、浸水危険度の高い区域は保険料率を高く設定するなどの民間事業を活用した対策案も考えられるとご意見をいただき、全国の土地利用規制、誘導施策に関する情報整理を行った。
影響予測結果の概要
  • 気候モデルを用いた降水量の増加率を条件として、埼玉県における内水氾濫の将来予測を試行した結果、内水浸水範囲の拡大、および内水浸水深が増加する可能性が示された。
  • 内水氾濫による浸水リスク人口は内水浸水範囲、浸水深の増加により増加する可能性が示された。
  • 将来の人口変動を考慮した場合は、現在人口条件の場合と比べて浸水リスク人口が減少する可能性が示された。

浸水範囲、浸水深の変化

埼玉県における内水氾濫の将来予測を試行した結果、現行計画の5年に1回発生する規模の降雨に対応した下水道を整備した場合でも、内水浸水範囲が拡大する可能性が示された。

73mm/h(現行の1.3倍)の降水時の浸水予測
図 2-2 73mm/h※1(現行の1.3倍)の降水時の浸水予測※2,3
  • 1:現行の雨水整備目標である5年に1回発生する降雨(56mm/h:一部市町村の想定雨量)は将来気候変動により1.3倍の73mm/h(21世紀末 RCP8.5)に増加する可能性がある。
  • 2:50cmは災害時に避難が困難となる水深
  • 3:一般的な作成マニュアルに基づく浸水想定区域図とは作成条件が異なる。

浸水リスク人口の変化

全年齢人口では、将来の人口減少の影響が大きく、浸水リスク人口の減少が顕著である。一方で、老齢化の進行により、65歳以上人口※③では浸水リスク人口絶対数の変化は小さいため、全年齢人口に対する65歳以上の人口の割合が大きくなる。

人口変動の考慮有無による浸水リスク人口の増加数
図 2-3 人口変動の考慮有無による浸水リスク人口の増加数
(抽出自治体における浸水深50cm以上の浸水区域)
  • ①:現在人口は将来人口が変わらないと想定した場合。
  • ②:人口変動は、将来の人口を埼玉県が公開している「埼玉県の市町村別将来人口推計ツール(平成22年国勢調査通常版)」を用いた本調査の手法により人口減少を考慮した場合。エラーバーは、人口変動の予測における最大値と最小値を示す。
  • ③:65歳以上を高齢者として設定した。高齢者は災害時の避難が若年層に比べて遅れる可能性があるため、災害弱者の視点から浸水リスク人口を算出した。なお、世界保健機関(WHO)では65歳以上を高齢者としている。

活用上の留意点

本調査の将来予測対象とした事項

本調査では、気候変動による降水量の増加と人口変動を条件として将来の内水氾濫範囲・浸水深の変化に与える影響及び浸水リスク人口に与える影響を対象とした。

本調査の将来予測の対象外とした事項

  • 1つの気候予測モデルの将来予測シナリオに基づく予測結果であり、将来予測結果の不確実性を十分に考慮していない。そのため、成果を活用する際は結果が不確実性を有することに留意する必要がある。
  • 社会条件については、人口以外の社会経済条件の変化は考慮されていないことに留意する必要がある。

その他、成果を活用する上での制限事項

他地域において活用する場合は、対象地域の内水氾濫モデルの作成、気候予測モデルの降水量の変動傾向、人口予測を行う必要がある。

適応オプション

本調査で検討した適応オプションは、表 2-3及び表 2-4に示すとおりである。

表 2-3 内水氾濫リスク軽減のための適応オプション評価表
適応オプション 想定される実施主体 評価結果 備考
現状 実現可能性 効果
行政 事業者 個人 普及状況 課題 人的側面 物的側面 コスト面 情報面 効果発現までの時間 期待される効果の程度
貯留施設の追加導入(ハード対策:貯める対策) 普及が進んでいる。
  • 貯留施設設置の用地確保、費用が必要。
  • 効果は降雨波形の影響をうける。
短期 事例が多く、設置直後に効果が期待できる。
内水排除ポンプの弾力的運用(ハード対策:流す対策) 一部普及が進んでいる。
  • 予測情報(内水域、排水先河川)の精度により効果に影響する。
  • 運用のみだと効果が限定される。
短期 事例が少なく、効果の高い運用方法については検討・精度向上を図る必要がある。
内水排除ポンプ設置(ハード対策:流す対策) 普及が進んでいる。
  • 排水先河川との運用の調整が必要。
  • 本川水位の状況によっては排水できない・ポンプ設置の費用と用地確保が必要。
長期 事例があり効果が期待できるが、排水先河川との調整に時間を要す。
浸水情報の収集・伝達:内水ハザードマップ更新(ソフト対策) 普及が進んでいる。
  • 効果の定量的評価が困難。
  • 実行力のある周知方法が必要。
短期 作成事例が多く周知は短期に行うことができる。効果は住民意識等にも影響される。
土地利用規制・誘導(ソフト対策) 普及が進んでいない。
  • 都市計画との調整。
  • 実施、制度化をどのようにするか。
長期 事例が少なく、埼玉県に適した方法・制度化に時間を要す。
表 2-4 適応オプションの考え方と出典
適応オプション 適応オプションの考え方と出典
貯留施設の追加導入
(ハード対策:貯める対策)
  • 気候変動による降水量の増加を貯留施設を設置することにより浸水を軽減する方法である。
  • 開発に伴う流出増分に対応する貯留施設は数多くあるが、降水量の増加に対応した事例は少ない。
内水排除ポンプの弾力的運用
(ハード対策:流す対策)
  • 既存排水機場などを活用し、排水先河川の水位状況に応じて効果的な操作を行うことにより浸水を軽減する方法である。
  • 埼玉県内の一部河川で検討・運用実績あり。効果は未確認。
内水排除ポンプ設置
(ハード対策:流す対策)
  • 地形的に自然排水が困難な地域の内水浸水を機械的に河川・水路に排水する方法である。
  • 埼玉県河川砂防課資料より、埼玉県内に18箇所、代表都市とした10自治体には12箇所の排水機場があり、6自治体が既存排水機場の対象流域となっている。排水先河川との調整が困難。
浸水情報の収集・伝達:内水ハザードマップ更新(ソフト対策)
  • 気候変動による降水量の増加を考慮した浸水想定図を作成し、危険度の把握、避難支援に関する情報提供を行う方法である。
  • 埼玉県内49自治体が内水ハザードマップを作成しているが、ほとんどが過去の浸水実績に基づいて作成されており、内水浸水被害が生じる降雨がどの地域でも発生するとした情報となっていない。
土地利用規制・誘導
(ソフト対策)
  • 浸水想定図を参考に、危険度の低い地域への住まいの変更、土地利用計画の変更等が考えられる。
  • 埼玉県内における事例はないため、他自治体での事例を参考に示す。
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