避難行動を促進するメッセージの調査と活用

掲載日 2023年11月27日
分野 普及啓発
地域名 中国四国(広島県)

気候変動による影響

広島の年平均気温は、100年あたり1.5℃の割合で上昇しています(注)。これは日本の平均値(100年あたり1.24℃)よりも高い値です。また、年降水量は大きく変化していませんが、短時間強雨回数の増加が見られています。今後ますます、気候変動に伴う降⾬の増加や、海面⽔位の上昇等による⽔災害の頻発化・激甚化が懸念されています。

取り組み

広島県では、平成 30 年7月豪雨災害を踏まえ、災害時における早めの避難行動につながる要素を導き出すため、防災や行動科学を専門とする大学教員などの有識者で構成する研究チームにより、県民の避難行動に関する調査と分析を行いました。この調査と分析は、平成30年から令和元年の間に行われ、①避難行動に関する調査として、面接調査と郵送調査を、②避難行動を促進する呼びかけメッセージに関する調査として、県民意識調査とその回答者に対する追跡調査を実施し、計4回の調査を行いました。

  • 調査概要

②の防災・減災に関する県民意識調査では、豪雨が発生したという仮想的状況のもとで、6パターンのメッセージ(A~F)に対し、避難行動を取るかどうかの意向、追跡調査では実際の避難行動等を調査しています。

<調査に用いた避難行動を呼びかける6パターンのメッセージ>

  • 調査結果

①の避難行動に関する調査では、緊急時の意思決定モデルを用いて、避難を躊躇させたり遅らせたりした要因、または促進した要因を調査し、早い段階での立ち退き避難を促進するためには、次の要因が有効であることが分かりました。

このようなことから、特に「他者からの働きかけ」が重要ではないかと考察しています。

②の避難行動を促進する呼びかけメッセージに関する調査の結果、防災・減災に関する県民意識調査では、避難場所に避難、避難場所・自宅外に避難するという人の割合は、いずれもメッセージBが最も高く、次いでメッセージAが高く、これらの傾向は男女別などの属性別に見ても、同様の傾向でした。追跡調査におけるメッセージA及びBは、従来県で用いられてきたメッセージFに比べて、あらかじめ避難のタイミングを決定する確率を 3.5~3.7%程度高めるなどの効果がありました。一方、非常持出品の準備については、メッセージAがFに比べて、非常持出品の準備する確率を 4.7~5.8%程度高めたのに対し、メッセージBでは効果が観察されませんでした。

そのため、「あなたが避難することは人の命を救うことになります」(メッセージA)という、人々の利他性を刺激し、責任感を持たせるメッセージを用いて呼びかけを行うことで、短期的にも長期的にも、避難意図を高めることができるのではないかと考察しています。

調査でまとめられた考察のまとめ

効果/期待される効果等

広島県では、『あなたの避難が,みんなの命を救う』をメッセージにしたポスター及びチラシを作成しました(図)。さらに県内在住の外国人に対しても避難行動を促すため、上記の啓発チラシを多言語へ翻訳し、「土砂災害から命を守る3つのポイント」等を周知するチラシも作成しました。その他、災害時の避難行動を促進するメッセージ事例の公開など、防災・減災へ向けた対策を強化しています。

また、調査を通じた分析結果を踏まえ、早い段階での立ち退き避難を促進させるための対策例の一つとして、災害を可視化するVR・AR等の疑似体験を通じた豪雨災害についての正確なイメージをもつことが必要と考察されました。
広島県では現在、土砂災害や河川の氾濫を疑似体験できる「自然災害体験VR(注2)」を公開しています。

『あなたの避難が,みんなの命を救う』をメッセージにしたポスター
図 『あなたの避難が,みんなの命を救う』をメッセージにしたポスター
(出典:広島県ウェブページ「避難行動を促す啓発事業」)

脚注
(注1)観測期間:1879-2021年
(注2)災害の予兆などを感じながら避難までを体験できる動画がYouTubeで公開されている。
 ■ひろしま自然災害体験VR【全編】
 ・パターン①谷出口の家
 ・パターン②谷出口から下流河川近くの家
 ・パターン③がけ下の家
 ・パターン④がけから少し離れた家
 ・パターン⑤川の近くの家

出典・関連情報

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