ニホンナシにおける気候変動の影響と適応策

掲載日 2023年8月4日
分野 農業・林業・水産業
地域名 関東(茨城県)

気候変動による影響

茨城県水戸市の平均気温は、100年あたり約1.3℃のペースで上昇しています。

1981~2000年と2001年以降の月別の平均気温を比較すると、2月・3月は+1℃以上、ナシの開花期にあたる4月は+0.4℃程度の温度上昇がみられ、ナシの生育が前進する気温推移となっています。実際、茨城県園芸研究所試験ほ場における1992~2021年の「幸水」の満開日は、およそ3年あたり1日のペースで早まっています。

ナシの花は、発芽~出蕾~開花と生育ステージが進むにつれて低温への抵抗力が弱まっていきます。2月・3月の大幅な温度上昇によって開花までの生育が前進する一方、4月の温度上昇幅は小さく低温遭遇リスクが比較的減少していないことから、晩霜害や温度不足によって結実が不安定になる可能性が高まっています。

加えて、近年、「豊水」では梅雨時期の低温と収穫期直前(夏季)の高温によって発生が助長される「みつ症」(注1)の重症果(図1)の発生率が増加しており、生育期後半の気候変動も安定生産を脅かす要因となっています。

取り組み

茨城県のニホンナシ栽培においては、以下のような気候変動適応策に取り組んでいます。

  1. 着果数の安定確保にむけた防霜ファン・多目的防災網の導入(図2)
    降霜時は気温の逆転現象が起こるため、地表面が最も低温となり、地上から上方へ離れるほど気温が高くなります。防霜ファンは温度の高い層の空気を送風機で吹き下ろし、果樹園内の気温を上昇させることで、晩霜害を低減する効果があります。また、園地全体をネットで覆う多目的防災網は防鳥・防ガ・防雹の効果が高く、近年は降霜対策としての効果も認められています。令和4年1月現在、県内の導入率は多目的防災網が50%以上であるのに対し、防霜ファンは10%未満と限定的ですが、今後、晩霜害発生の年が増えると需要が高まる可能性があります。
  2. メッシュ農業気象データを用いた生育予測(図3)
    農研機構メッシュ農業気象データシステム(注2)では、全国の日別気象データを約1km単位で取得することができ、26日先までの予報値が含まれています。茨城県園芸研究所では、「幸水」の満開日、「幸水」「豊水」「恵水」「あきづき」の収穫始期、「豊水」のみつ症重症果発生率について、メッシュ農業気象データの平均気温を用いた予測式を開発し、予測結果をホームページで情報提供しています。
  3. みつ症発生の少ない新品種の導入
    茨城県生物工学研究所では新品種「恵水」を開発し、平成25年度から県内で苗木導入が始まっています。糖度が高く、同時期に収穫する「豊水」に比べみつ症の発生が少ないのが特徴です。また、開花期が主要品種よりも遅いため、晩霜害リスクが低い点も長所の一つです。

効果/期待される効果等

茨城県では、県農業総合センターを核として、「持続可能な農業及び気候変動に対応した技術の開発」を重点的に進める事項としています。ニホンナシについては、携帯型非破壊分光計を用いた果実品質予測技術の開発や、黒星病に対する新たな病害防除体系の確立等に取り組むことで、気候変動下における高品質果実の安定生産・供給の実現が期待されます。

みつ症のナシ果実
図1 みつ症のナシ果実
(出典:農林水産省 令和3年度地域における気候変動適応実践セミナー 資料6「茨城県の果樹栽培(主にニホンナシ)における気候変動の影響と適応策(茨城県農業総合センター園芸研究所果樹研究室)」(令和4年1月20日))
防霜ファン(左)と多目的防災網(右)
図2 防霜ファン(左)と多目的防災網(右)
(出典:農林水産省 令和3年度地域における気候変動適応実践セミナー 資料6「茨城県の果樹栽培(主にニホンナシ)における気候変動の影響と適応策(茨城県農業総合センター園芸研究所果樹研究室)」(令和4年1月20日))
ニホンナシ「幸水」の開花予測日の表示例
図3 ニホンナシ「幸水」の開花予測日の表示例
(出典:農林水産省 令和3年度地域における気候変動適応実践セミナー 資料6「茨城県の果樹栽培(主にニホンナシ)における気候変動の影響と適応策(茨城県農業総合センター園芸研究所果樹研究室)」(令和4年1月20日))

脚注
(注1)みつ症:果肉が水浸状になる生理的現象で、ひどい場合は果肉全体に発生する。水浸部の分布は斑点状や放射状、果皮直下に広がるなど品種によって異なり、褐変したりス入り症状が発生することもある。症状が生じた果実は外観や日持ち性が悪くなり、商品価値がなくなる。
(注2)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発・運用する気象データサービス。

出典・関連情報

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