ため池の保全・活用

掲載日 2023年10月20日
分野 水環境・水資源 / 農業・林業・水産業 / 自然災害・沿岸域 / 国民生活・都市生活 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響と適応における位置づけ

全国のため池管理では、少雨(少雪)の頻度が増加したことにより、貯水量が十分に回復しなかった、受益地で用水不足が生じたといった問題が発生している。

また、将来的には、2℃上昇・4℃上昇のいずれのシナリオでも、大雨注意報の基準雨量を超える回数の増加により、ため池管理にかかる労力や池水位が設定された洪水位を超過する可能性の増加が予測されている。一方、雨の降らない日も増加すると予測されており、貯水量の回復に影響が出る可能性がある。

このため、農業分野では、用水管理の自動化や用水路のパイプライン化等による効率的な水利用、ため池・農業用ダムの運用変更による既存水源の有効活用を図るなど、降水量の変動に対して頑健な農業用水の確保・利活用等を推進することが気候変動適応計画に位置付けられている。

一方で、ため池は、農業用水の確保だけでなく、洪水調節、土砂流出の防止や生物の生息・生育の場所の保全、地域の憩いの場、地域の言い伝えや祭りなどの文化・伝統の発祥など、多面的な機能を有している1。このため、災害に備えた整備・安全管理を行いつつ、地域コミュニティ機能を上手く発揮して、効率的にため池の多面的機能を維持していくことが求められている。

(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用、一部CCCAにて参考文献を参照して追記)

取り組み

ため池の継続的な管理、配置や水域との連続性の確保などにより、ため池の多面的機能を維持し、生物多様性の向上、気候変動への適応、地域の文化・伝統の保全などの社会課題の解決に貢献する。

かいぼり
(池干し)
ため池の水を抜いて池底を干し、底に堆積した泥を取り除き、堤体を補修する作業である。ひび割れや水漏れがないか等の点検、天日干しをすることによる悪臭対策・水質改善を目的に実施される。2)
草刈り 堤体法面の草刈りを定期的に実施することで、漏水などの変状を見つけやすくする。3)
水位撹乱による外来種駆除 人工的な水位撹乱によって、鳥類によるアメリカザリガニやウシガエル幼生に対する捕食圧を高めることで、低密度管理を実施する。4)
他水域との接続性の確保 水生生物の種多様性には種の供給源となる水域との接続性が重要となる。5
点検 災害時に備え、堤体の損傷がないか点検する。

事例

ため池の管理

法面の草刈り、池干しによる水質改善・外来種駆除等が実施されている。

期待される効果等

農業用水等の確保、雨水貯留及び事前放流等による氾濫水量の減少、洪水時のピーク流量低減効果が期待される。福岡県樋井川では、農業用ため池の活用による総合的な治水対策が河川整備計画に位置付けられている。6,7,8)

また、市街地にあるため池により、ヒートアイランドの緩和効果が期待される。9)

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 生物多様性の向上
小さな止水域は、湖沼や河川と比べても単位面積当たりの生物種数が多い。10)
小規模な水辺空間が希少な沈水植物の重要な生息場となっている。11)
ため池は、止水域を好む水生生物にとって重要な生息場となっている。12)

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • ため池が管理放棄されると、種多様性が低下する可能性があることから、定期的な維持管理が必要となる。草刈りや泥吐きなどの管理を定期的に実施することは地域の生態系維持において重要である。13
  • ため池の多面的機能を維持するためには、人口減少が進んだ将来におけるため池の保全のあり方について検討する必要がある14
  • 老朽化したため池が大雨で決壊し、下流の水害リスクを高めることが問題視されている。「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」に基づき、ため池の状態や流域での位置を考慮した検討が必要である。15)

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報

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