街路樹の維持・活用

掲載日 2023年10月20日
分野 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響と適応における位置づけ

気温上昇に伴い、体感指標である WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:暑さ指数)も上昇傾向を示す可能性が高い。全国を対象に 21 世紀末の8月の WBGT を予測した事例(RCP4.5 シナリオを使用)では、将来、暑熱環境が全国的に悪化し、特に北日本で現在と比較して大きくなる可能性が示されている。

街路樹は、景観の形成や向上、防災機能、微気象の調整、大気汚染防止といった機能などを有するといわれている。1) 加えて、緑陰の提供により、快適な歩行空間を提供し、都市生活における暑熱対策に寄与すると期待される。

(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用、一部CCCAにて参考文献を参照して追記)

取り組み

生態系に配慮した樹種の選定や剪定等の管理によって街路樹を維持・活用し、雨水の流出抑制や炭素固定等の機能を発揮させる。

生き物の生態に考慮した植栽 チョウなどの食餌木、花や実のなる木のような鳥類、飛翔性の昆虫類がやってくる街路樹を植栽する。2
街路樹の混載 街路樹が形成する緑のボリューム(街路樹の混栽等)によって、多くの種類の鳥類が出現する可能性が高くなる。1)
外来植物の選択的除草 街路樹の植枡に生育する草本植物には要注意外来生物を含む外来種も含まれるため、これらを選択的に除草するなど方策を加味することで、街路樹空間が生物多様性保全で担う役割は一層高くなる可能性がある。3)
順応的管理 植物の変化やその地域に生息する生き物の状況に合わせて、適宜草刈りや剪定などの管理を行う。2

事例

生物多様性緑化ガイド(東京都港区)

港区では「生物多様性緑化ガイド」を策定し、港区全体で多様性のある豊かで快適な都市の自然生態系を構築することを目指している。ガイドの中には、生物多様性を取り入れた緑化計画として、「緑の拠点を街路樹でつなげる」という手法を定めている。2)

期待される効果等

植栽基盤によって雨水貯留・雨水流出抑制されることで、都市型水害の軽減につながる。4評価ツールとして、i-TreeEco(樹林の生態系(主に調整)サービスとその貨幣価値の定量的評価が可能なツール)が挙げられる。

また日射遮蔽や蒸発散によって、ヒートアイランド現象が緩和される。5その効果は、樹木の流体力学的効果、熱的効果を組み込んだ放射伝導計算に基づく非定常熱収支解析とCFDの連成解析により、街路空間の微気候を解析することで評価できる。

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 都市の生物多様性保全
街路樹そのものや街路樹の植枡に生育する草本植物が都市の生物多様性保全に貢献する。また、より高い人為的撹乱下にある街路樹空間は、ハビタットとしての役割を担っている。3)
鳥類の生息地
鳥類の生息地や生態系ネットワークの拠点として機能することによって、生物多様性保全につながる。1)
[評価方法の例]
調査対象地の街路樹をデータベース化し、ルートセンサス法にて鳥類調査を実施。
緩和策 二酸化炭素吸収・二酸化炭素排出抑制
炭素蓄積や固定によって二酸化炭素吸収され、また、冷暖房使用量低減による二酸化炭素の排出抑制につながる。5)
[評価方法の例]
i-TreeEcoによる評価

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • 街路樹を鳥類が利用するエコロジカルネットワークの拠点とさせるためには、大規模樹林地との近接性が重要であり、街路樹の配置のみではコリドーやパッチの拠点として機能しない。6)

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報

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