運輸と気候変動に関する世界の現状報告書の公表

掲載日 2022年6月8日
分野 産業・経済活動
地域名 海外

気候変動による影響

近年公開されたIPCCの1.5℃特別報告書は、パリ協定で求められる1.5℃シナリオを達成するためには、温室効果ガス(GHG)排出量を大幅にかつ早急に削減する必要があることを明確にしました(注1)。
運輸インフラやサービスに対する気候変動による影響は既に生じており、適応計画や戦略に取る組むことも重要となっています。

取り組み

SLOCATは(注2)、2018年12月に初めて「運輸と気候変動に関する世界の現状報告書(TCC-GSR(注3))」を公表しました(図1)。TCC-GSRは、国や都市、地域または民間企業による持続可能な運輸計画やプログラムにおいて、気候変動の緩和と適応に関する目標を設定する際に参考となる政策立案者向け資料として作成されたものです。TCC-GSRは、大きく4つのパートで構成されています。

  1. グローバルな概要
    運輸と気候変動に関する現在の傾向を比較した概要として、旅客輸送と貨物輸送、国際航空輸送と海運、そして世界の地域という3つの側面から運輸需要や排出量、低炭素運輸政策などが示されています。
  2. 運輸需要、排出量および緩和経路
    最近の運輸需要の動向について説明されており、パリ協定に準拠した緩和経路の可能性も示されています。
  3. 運輸と気候変動政策の枠組み
    パリ協定を通じた運輸と気候変動に関する計画のフレームワークについて説明されています。
    気候変動が運輸インフラやサービスに及ぼす影響は既に生じており、今後さらに増大するため各国政府による地球規模での適応計画や戦略の価値を認識することの重要性が示されています。
      (適応行動を拡大するための例)
    • 地域、国、国際レベルでの運輸適応能力の構築
    • 気候リスクのスクリーニングや脆弱性のマッピング、既存の交通システム、サービス、すべての新規プロジェクトの評価の推進
    • 道路資産管理システムへの気候変動の組み込み
    • 将来のリスクを最小化するための業界関連の技術的な開発および採用
    • 追加的な気候変動資金の活用
    • 適応計画、災害リスク軽減、持続可能な開発に係るコネクションの構築
    • 資金提供機関、実施機関、運営機関間の連携強化
  4. 運輸と気候変動対策への対応支援
    低炭素運輸手段のスケールアップと加速化について、運輸セクター変革のための資金調達戦略や、世界、地域、国、地方レベルによる取組事例が紹介されています。

報告書全体を通して、気候変動と持続可能な開発に関した運輸部門における施策と目標を効果的に整理するために開発されたフレームワーク「Avoid-Shift-Improve」が用いられています(図2、注4)。
また、SLOCATは、持続可能な運輸に関する情報のデータベース「運輸知識ベース (Transport Knowledge Base (TraKB))」も整備しています。これは、SLOCATが収集したすべての既存データセット(隔年報告書、国別報告書、気候金融商品プロジェクトなど)と、様々な外部情報源(運輸活動、排出量、大気質、運輸安全など)の貴重なデータを統合しています。すべての主要な移動手段(航空、高速鉄道、バス高速輸送、都市鉄道、自動車、自転車、徒歩など)が、Excelベースのデータベースでカバーされています(注5)。

効果/期待される効果等

TCC-GSRは、運輸と気候変動に関する政策提言や普及活動のための重要な情報源となっています。そして、持続可能な低炭素運輸のための共同知識と行動を可能にし、国際的な気候変動と持続可能性のプロセスに役立つとされています。

図1 TCC-GSR
(出典:Partnership on Sustainable, Low Carbon Transport 「Transport and Climate Change Global Status Report 2018」)

図2 フレームワーク「Avoid-Shift-Improve」
(出典:Partnership on Sustainable, Low Carbon Transport 「Transport and Climate Change Global Status Report 2018」)

脚注
(注1)運輸部門は、世界のエネルギー関連GHG排出量の約四分の一、総排出量では六分の一を占めている。
(注2)SLOCAT(Sustainable, Low Carbon Transport):持続可能な低炭素運輸パートナーシップ2009年に設立され、2014年よりオランダで法人化された。持続可能な低炭素運輸のための知識と行動を共有し、気候変動と持続可能性の国際的なプロセスに反映させることを目的としている。
(注3)Transport and Climate Change Global Status Report
(注4)「回避」は自動車による移動の必要性を回避または削減することを指す。「移行」は、自家用車の利用を公共交通機関、徒歩、自転車の利用への移行することにより移動効率を改善しようとするもの。「改善」は、車両効率や燃費を向上させるとともに、運輸インフラの最適化を図る施策を指す。
(注5)TraKBに含まれるすべての情報は、特に断りのない限り、Creative Commons - Attribution 4.0 International (CC BY 4.0)の下でライセンスされています。このライセンスに基づき、ユーザーは適切なクレジットを提供する限り、データの共有(あらゆる形式でのデータのコピーと再配布)と翻案(あらゆる目的でデータを基に構築すること)が許可されている。

出典・関連情報
Partnership on Sustainable, Low Carbon Transport 「Transport and Climate Change Global Status Report 2018」
http://www.slocat.net/wp-content/uploads/legacy/slocat_transport-and-climate-change-2018-web.pdf
SLoCaT Partnership 「Who We Are」
https://slocat.net/about-us/who-we-are/
SLoCaT Partnership 「Global Status Report on Transport and Climate Change」
https://slocat.net/tcc-gsr/
SLoCaT Partnership 「Transport Knowledge Base (TraKB)」
https://slocat.net/our-work/knowledge-and-research/trakb/

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