オーストリアにおける鉄道輸送のリスク管理戦略

掲載日 2022年11月4日
分野 国民生活・都市生活 / 産業・経済活動
地域名 海外(オーストリア)

気候変動による影響

高山地帯に位置するオーストリアの鉄道輸送システムは、人々や物資を運ぶ重要な役割を担っています。アルプスの地形と限られたスペースのため、鉄道路線は氾濫原や急傾斜地、不安定な傾斜地を通ることもあり、洪水の他、土石流、落石、雪崩や地すべりといった様々な危険にさらされています(注1)。アルプスにおける災害は豪雨や早期の融雪、極端な気温が引き金となることが多く、気候変動によりこれらの災害がより深刻となることが懸念されています。

取り組み

現在及び将来の気候変動リスクに対応するため 、オーストリア連邦鉄道は主として下記に記載する2つの補完的なリスク管理戦略を導入しています。

  1. 構造的な防護策を実施することによるリスクの低減: オーストリア連邦鉄道は、洪水や落石等による災害への防護策として主に堤防や瓦礫置き場などの建設と維持を行っています。このような対策を実行するためには資金調達が必要ですが、計画する対策が集落や道路、エネルギー供給などの他のインフラの保護にもつながる場合、国や地方の機関等から補助金を受けとることができます。
  2. 緊急事態への備えを改善: オーストリア連邦鉄道は、「infra:wetter(注2)」と呼ばれる気象観測・早期警告システムを活用することにより、地域レベルの重要な気象指標(気温、風速、降雨量、降雪量、雪線など)の72時間後までの予測を入手することができます(図)。さらに、豪雨や雷雨、降雪量に関する警告を、Eメールやテキストメッセージで得ることができます。

効果/期待される効果等

「infra:wetter」は、気候変動による気象災害の頻度と強度の予測変化に対応できる効果的なリスク管理策と言えます。例えば、大雪が予想される場合、鉄道ネットワークの運用性を確保するためには、人員配置や除雪の計画、スイッチポイントの余熱などの事前措置を講じることが可能となります。

infra:wetterが提供する情報例

図 infra:wetterが提供する情報例
(出典:UBIMET GmbH 「Weather Forecasts & Natural Hazards」)

脚注
(注1)1995年8月に発生した土石流による脱線事故では3人の死者と17人の重傷者が確認され、路線は1週間閉鎖された。2013年6月の洪水と土石流では、鉄道施設が深刻な被害を受け、被害額はオーストリア連邦鉄道全体で7500万ユーロ(日本円では約100億円)に及んだと報告されている。
(注2)infra:wetterとは、オーストリア連邦鉄道と民間の気象サービス会社(UBIMET GmbH)が共同で運営する気象モニタリングと早期警報システムである。中央気象地質研究所の気象台やレーダー、衛星からのデータ、さらにオーストリア国内の鉄道ネットワーク全体に関する詳細情報とローカル気象予測およびグローバル気象予測が統合されている。さらに、モバイル版の開発、吹雪の発生や防風林の効果についての予測、夏季の暑熱環境に関する警告の発信などについても開発が進められている。

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