農業、森林・林業、水産業農業の適応策

項目別の基本的な施策

適応農業生産総論

農業農業生産全般において、高温等の影響を回避・軽減する適応技術や高温耐性品種等の導入など適応策の生産現場への普及指導や新たな適応技術の導入実証等の取組が行われている。

地方公共団体(もしくは関係機関等)と連携し、温暖化による影響等のモニタリングを行い、「地球温暖化影響調査レポート」、農林水産省ホームページ等により適応策に関する情報を発信している。気候変動影響評価報告書において、重大性が特に大きく、緊急性及び確信度が高いとされた水稲、果樹及び病害虫・雑草については、より重点的に対策に取り組むものとする。

その他の品目については、これまで取り組んできた対策を引き続き推進するとともに、今後の影響予測も踏まえ、新たな適応品種や栽培管理技術等の開発、又はそのための基礎研究に取り組む。

引き続き地方公共団体(もしくは関係機関等)と連携し、温暖化による影響等のモニタリングに取り組むとともに、「地球温暖化影響調査レポート」、農林水産省ホームページ等により適応策に関する情報を発信する。

[関係府省庁]農林水産省
出典:農林水産省(2015)「平成26年地球温暖化影響調査レポート」
適応水稲

農業高温対策として、肥培管理、水管理等の基本技術の徹底を図るとともに、高温耐性品種の開発・普及を推進しており、高温耐性品種の作付けは漸増しているものの、実需者ニーズとのミスマッチから十分普及していない(平成26 年地球温暖化影響調査レポートによる高温耐性品種の作付面積は77,500 ha)。

病害虫対策として、発生予察情報等を活用した適期防除等の徹底を図っている。

今後の品種開発に当たっては、高温による品質低下が起こりにくい高温耐性を付与した品種の開発を基本とする。

現在でも極端な高温年には収量の減少が見られており、将来的には更なる高温が見込まれることから、2015年以降、収量減少に対応できるよう高温不稔*1 に対する耐性を併せ持つ育種素材の開発に着手する。

引き続き、高温に対応した肥培管理、水管理等の基本技術の徹底を図るとともに、2016年以降、実需者のニーズに合った形で高温耐性品種の作付拡大を図るため、生産者、米卸売業者、実需者等が一体となった、高温耐性品種の選定、導入実証、試食等による消費拡大等の取組を支援する。

発生予察情報等を活用した適期防除など病害虫対策の徹底を図るとともに、温暖化の進行に伴い発生増加が予想されるイネ紋枯病やイネ縞葉枯病等の病害虫に対する被害軽減技術を2019年を目途に開発し、その成果の普及を図る。

[関係府省庁]農林水産省
  • *1高温不稔:開花期の高温により受精が阻害され、子実にでんぷんが蓄積しないこと
適応果樹

農業うんしゅうみかんでは、高温・強日射による日焼け果等の発生を軽減するため、直射日光が当たる樹冠上部の摘果を推進している。また、浮皮果の発生を軽減するため、カルシウム剤等の植物成長調整剤の活用等を推進している。さらに、着色不良対策として、摘果目的に使用するフィガロン*1 散布の普及を進めている。

うんしゅうみかんよりも温暖な気候を好む中晩柑(しらぬひ(デコポン)、ブラッドオレンジ等)への転換を図るための改植等を推進している。

りんごでは、着色不良対策として、「秋映(あきばえ)」等の優良着色系品種や黄色系品種の導入のほか、日焼け果・着色不良対策として、かん水や反射シートの導入等を進めている。

もも、おうとう等を含めた品目共通の干ばつ対策として、マルチシート等による水分蒸発抑制等の普及や、土壌水分を維持するための休眠期の深耕・有機物投入、干ばつ時に発生しやすいハダニ類の適期防除を推進している。また、開花期における晩霜等による凍霜害への対策として、凍霜害警戒体制の整備を推進している。

気候変動による着色不良果実の発生に対する品目共通の対応策の一つとして、このような果実も果汁用原料として積極的に活用できるよう、加工用果実の生産流通体制を整備している。

うんしゅうみかんでは、2015年以降、浮皮果の発生を軽減させるジベレリン*2・プロヒドロジャスモン*3 混用散布、果実の日焼けを防止する遮光資材の積極的活用等による栽培管理技術の普及を加速化させる。また、着花を安定させるため、施肥方法、水分管理等の改善による生産安定技術の開発に着手する。

りんごでは、2015年以降、高温下での着色不良及び日焼け発生を減少させるための栽培管理技術の開発に着手する。

栽培適地が移動するとの将来予測を踏まえ、より標高の高い地帯で栽培を行うなど標高差を活用した新たな園地整備を図るため、2016年以降、こうした取組に向けた栽培実証や、品種を転換するための改植に対する支援を行うとともに、標高の高い地帯での大規模園地基盤整備を推進する。

ぶどうでは、着色不良対策として、引き続き「クイーンニーナ」等の優良着色系品種や「シャインマスカット」等の黄緑系品種の導入を推進するとともに、成熟期の高温による着色障害の発生を軽減するため、2015年以降、環状剥皮(かんじょうはくひ)*4 等の生産安定技術の普及を加速化させる。

農業日本なしでは、発芽不良の被害を軽減するため、発芽促進剤の利用、肥料の施用時期の変更等の技術対策の導入・普及を推進するとともに、土壌改良等により暖地における生産安定技術の開発に着手する。

育種の側面からは、うんしゅうみかん、りんご、日本なしでは、2019年を目途に高温条件に適応する育種素材を開発、その後、当該品種を育成し、2027年以降、産地に実証導入を図る。

気候変動により温暖化が進んだ場合、亜熱帯・熱帯果樹の施設栽培が可能な地域が拡大するものと予想されることから、2016年以降、高付加価値な亜熱帯・熱帯果樹(アテモヤ、アボカド、マンゴー、ライチ等)の導入実証に取り組み、産地の選択により、既存果樹からの転換等を推進する。

温暖化の進展により、りんご等において、栽培に有利な温度帯が北上した場合、新たな地域において、産地形成することが可能になると考えられる。このような新たな産地形成に際しては、低コスト省力化園地整備等を推進する。

果樹は永年性作物であり、結果するまでに一定期間を要すること、また、需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、他の作物にも増して、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。従って、産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、主要産地や主要県との間のネットワーク体制の整備を行う必要がある。

[関係府省庁]農林水産省
  • *1フィガロン:かんきつ類の熟期促進、摘果、浮皮軽減等の目的で使用される植物成長調整剤
  • *2ジベレリン:果樹の生育促進、開花促進、果実肥大等の目的で使用される植物成長調整剤
  • *3プロヒドロジャスモン:果実の着色促進、うんしゅうみかんの浮皮軽減等の目的で使用される植物成長調整剤
  • *4環状剥皮:幹の表皮を剥皮することによって、葉で作られた栄養分を剥皮部分より下部へ移行させることなく果房へ集中させることで、着色の改善につながる技術
適応土地利用型作物(麦、大豆、飼料作物等)

麦類では、多雨・湿害対策として、排水対策、赤かび病等の適期防除、適期収穫など基本技術の徹底を図るとともに、赤かび病、穂発芽*1 等の抵抗性品種への転換を推進しており、一定の効果が見られる。また、凍霜害対策として、気候変動に適応した品種・育種素材、生産安定技術の開発・普及を推進している。

大豆では、多雨・高温・干ばつ等の対策として、排水対策の徹底を図るとともに、地下水位制御システムの普及を推進しており、一定の効果が見られる。また、病害虫・雑草対策として、病害虫抵抗性品種・育種素材や雑草防除技術等の開発・普及に取り組んでいる。さらに、有機物の施用や病害虫発生リスクを軽減する輪作体系など気候変動の影響を受けにくい栽培体系の開発に取り組んでいる。

小豆では、北海道(道央・道南)において、高温耐性品種「きたあすか」の普及を推進している。

茶では、省電力防霜ファンシステム等による防霜技術の導入等の凍霜害対策を推進しており、一定の効果が見られる。また、干ばつ対策として、敷草等による土壌水分蒸発抑制やかん水の実施、病害虫対策として、発生予察技術の導入、クワシロカイガラムシ*2 に抵抗性のある品種への改植等を推進している。

てん菜では、病害虫対策として、高温で多発が懸念される病害に対する耐病性品種の開発・普及に取り組んでおり、効果が見られる。また、高温対策として、現場における生産状況の定期的な把握・調査や最適品種を選択するための知見の集積に取り組むほか、多雨を想定した排水対策に取り組んでいる。

今後もこれまで取り組んできた対策を引き続き推進する。

[関係府省庁]農林水産省
  • *1穂発芽:収穫期の降雨等により、収穫前の穂に実った種子から芽が出てしまう現象
  • *2クワシロカイガラムシ:茶の主要害虫で、茶樹の枝、幹など樹冠内部に寄生し、樹勢衰退による枝枯れ等を引き起こす。近年、全国的に多発傾向にあるが、気候変動との因果関係は明らかではない
適応園芸作物(野菜)

トマト野菜では、高温対策として、高温条件に適応する育種素材の開発及び当該品種の普及を推進するとともに、露地野菜では、適正な品種選択、栽培時期の調整や適期防除により、安定供給を図っている。また、干ばつ対策として、かんがい施設の整備、マルチシート等による土壌水分蒸発抑制等を推進するとともに、干ばつ時に発生しやすいハダニ類等の適期防除を推進している。

施設野菜では、比較的大きな施設を中心に高温対策として、地温抑制マルチ、遮光資材、細霧冷房、パッド&ファン*1、循環扇、ヒートポンプ*2 を利用した低コスト夜間冷房技術等の導入に取り組んでいる。また、台風・大雪対策として、災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入、パイプハウスの補強、補助電源の導入等を推進しており、一定の効果が見られる。花きでは、高温対策として、適切なかん水の実施等を推進しているほか、高温条件に適応する品種の普及に取り組んでいる。

施設花きでは、高温対策として、地温抑制マルチ、遮光資材、細霧冷房、パッド&ファン、循環扇、ヒートポンプを利用した低コスト夜間冷房技術等の導入等を推進しているほか、台風・大雪対策として、災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入、パイプハウスの補強、補助電源の導入等を推進しており、一定の効果が見られる。

[関係府省庁]農林水産省
  • *1パッド&ファン:水滴で湿らせた冷却パッドと冷却ファンを組み合わせ、農業用ハウス内を気化冷却により冷房効果を得る装置
  • *2ヒートポンプ:少ない投入エネルギーで空気中などから熱をかき集め、大きな熱エネルギーとして利用する技術
適応畜産

畜産家畜では、畜舎内の散水・散霧や換気、屋根への石灰塗布や散水等の暑熱対策の普及による適切な畜舎環境の確保を推進するとともに、密飼いの回避や毛刈りの励行、冷水や良質飼料の給与等の適切な飼養管理技術の指導・徹底に努めている。

また、栄養管理の適正化等により、夏季の増体率や繁殖性の低下を防止する生産性向上技術等の開発・普及に取り組んでいる。

飼料作物では、気候変動に応じた栽培体系の構築、肥培管理技術や耐暑性品種・育種素材の開発・普及等の暑熱対策に取り組んでいる。また、抵抗性品種・育種素材の開発・普及等の病害虫対策に取り組んでいる。

[関係府省庁]農林水産省
適応病害虫・雑草・動物感染症

国内で発生している病害虫については、発生状況や被害状況を的確に捉えることが重要である。そこで、指定有害動植物*1 を対象とした発生予察事業を引き続き実施し、発生状況や被害状況等の変化を調査するとともに、適時適切な病害虫防除のために情報発信を行う。さらに、気候変動に応じて、発生予察の指定有害動植物の見直しや、気候変動に対応した病害虫防除体系の確立に着手する。

国内で未発生、もしくは一部のみで発生している重要病害虫*2については、海外からの侵入を防止するための輸入検疫、国内でのまん延を防ぐための国内検疫、侵入警戒調査及び侵入病害虫の防除を引き続き実施するとともに、国内外の情報に基づいた病害虫のリスク評価も進める。さらに病害虫のリスクの検証・評価、及びその結果に基づいた検疫措置の検討に着手する。

国内で既に発生している重要病害虫については、未発生地域における侵入警戒調査の精度向上や、防除技術の高度化等に向けた技術開発に順次取り組む。

長距離移動性害虫*3 については、海外からの飛来状況(飛来時期や飛来量)の変動把握技術や、国内における分布域変動(越冬可能域の北上や発生・移動の早期化)の将来予測技術の確立に着手する。

※写真掲載予定水田等で発生増加が予測されるイネ紋枯病やイネ縞葉枯病等の病害虫について、水稲の収量等への影響の解明と対策技術の開発に着手する。

雑草については、大豆収穫期まで残存する雑草量の増加による汚損粒の発生リスクを評価するとともに、被害を軽減する技術の開発に着手する。

動物感染症については、節足動物が媒介する家畜の伝染性疾病に対するワクチン候補株(流行している伝染性疾病に適したワクチンを製造するためのウイルス)の選定、効果的な防疫対策等のリスク管理の検討、鳥インフルエンザの我が国への侵入要因と考えられる渡り鳥のリスク等に係る調査等に取り組む。

[関係府省庁]農林水産省
  • *1指定有害動植物:植物防疫法(昭和25年法律第151号)第22条において、国内における分布が局地的でなく、かつ、急激にまん延して農作物に重大な損害を与える傾向がある病害虫で、農林水産大臣が指定する。
  • *2重要病害虫:国内にまん延すると有用な植物に重大な損害を与えるおそれがある病害虫
  • *3長距離移動性害虫:自分の飛翔能力だけでなく、大規模な気象現象を利用して、数百kmから数千kmを移動する害虫を指す。ウンカ類、アブラムシ類、ヤガ類など農業上の重要な害虫も多く含まれる。日本では梅雨時期に発達する下層ジェット気流によって、中国大陸から海を越えてトビイロウンカ・セジロウンカなどが主に西日本に移動してくることが知られている。
適応農業生産基盤

農業「農業農村整備における地球温暖化対応策のあり方」をとりまとめ、農業生産基盤に関する適応策検討調査を実施するとともに、農業農村整備に関する技術開発計画に基づく地球温暖化の影響評価と対応に資する技術の開発を推進している。

将来予測される気温の上昇、融雪流出量の減少等の影響を踏まえ、用水管理の自動化や用水路のパイプライン化等による用水量の節減、ため池・農業用ダムの運用変更による既存水源の有効活用を図るなど、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、効率的な農業用水の確保・利活用等を推進する。

集中豪雨の増加等に対応するため、排水機場や排水路等の整備により農地の湛水被害等の防止を推進するとともに、湛水に対する脆弱性が高い施設や地域の把握、ハザードマップ策定などのリスク評価の実施、施設管理者による業務継続計画の策定の推進など、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、農村地域の防災・減災機能の維持・向上を図る。その際、既存施設の有効活用や地域コミュニティ機能の発揮等により効率的に対策を行う。

現状では、気候変動予測の不確実性が高く、将来予測に基づく具体的な検討を行う根拠に乏しいことから、気候変動研究の進展に伴う新たな科学的知見等を踏まえ、中長期的な影響の予測・評価を行う。

将来、新たな科学的知見や気候モデル、さらには農業生産基盤への影響評価手法の精度向上等により、将来予測に基づく施設整備を行う根拠が明確となった場合は、施設整備のあり方を検討する。

[関係府省庁]農林水産省
適応食品・飼料の安全確保(穀物等の農産品及びその加工品、飼料)

国内ほ場土壌等のかび毒産生菌の分布や、国産農産物や飼料のかび毒汚染の調査を継続し、気候変動による影響の把握に努める。農産物や飼料のかび毒汚染の増加によって、人や家畜に健康被害を生じる可能性がある場合には、汚染を低減する技術を開発し、農産物や飼料の生産者に普及する。

かび毒汚染の低減対策は定期的に検証するとともに、新たな知見を考慮して、見直しをする。

[関係府省庁]農林水産省
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