農業、森林・林業、水産業農業への影響

コメ近年、農産物や水産物などの高温による生育障害や品質低下、観測記録を塗り替える高温、豪雨、大雪による大きな災害が、我が国の農林水産業・農山漁村の生産や生活の基盤を揺るがしかねない状況となっており、また、IPCC第5次評価報告書では気候変動への適応策を行わなければ、今後の気候変動が主要作物の生産に負の影響を及ぼすとされていることなどに表されるように、農林水産業は気候変動の影響を最も受けやすい産業である。農林水産業が営まれる場において、気候変動の負の影響を軽減・防止する取組が適切に実施されない場合は、食料の安定供給の確保、国土の保全等の多面的機能の発揮、農林水産業の発展及び農山漁村の振興が脅かされることから、農林水産分野での気候変動への適応の取組は極めて重要である。

項目別の影響

影響農業生産総論
稲作

現在の影響

農業生産は、一般に気候変動の影響を受けやすく、各品目で生育障害や品質低下など気候変動によると考えられる影響が見られる。

影響の将来予測

主要作物等を中心に実施しているが、より一層、将来影響の研究を進める必要がある。

影響水稲
影響評価結果:
水稲 重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:高い 確信度:高い

現在の影響

現在の状況としては、水稲では、既に全国で、高温による品質の低下(白未熟粒*1(しろみじゅくりゅう)の発生、胴割粒*2(どうわれりゅう)の発生、一等米比率の低下等)等の影響が確認されている。また、一部の地域や極端な高温年には収量の減少も見られる。

影響の将来予測

将来予測される影響としては、全国の水稲の収量は、現在より3℃ を超える高温では北日本を除き減収することが予測されている。

一等米の比率は、高温耐性品種*3 への作付転換が進まない場合、登熟期間の気温が上昇することにより、全国的に低下することが予測されている。特に、九州地方の一等米比率は、高温耐性品種への転換が進まない場合、今世紀半ばに30%弱、今世紀末に約40%低下することを示す報告がある。

また、害虫について、水田では、寄生性天敵や一部の捕食者及び害虫の年間世代数がそれぞれ増加し、害虫・天敵相の構成が変化すると予想されているほか、病害について、野外水田で人為的に作り出した高CO2条件下(現時点の濃度から200 ppm上昇)では、イネ紋枯病やイネいもち病などの発病の増加が予測された事例がある。

  • *1白未熟粒:デンプンの蓄積が不十分なため、白く濁って見える米粒
  • *2胴割粒:胚乳部に亀裂のある米粒
  • *3高温耐性品種:高温にあっても玄米品質や収量が低下しにくい品種
影響果樹
影響評価結果:
果樹 重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:高い 確信度:高い

現在の影響

果樹は永年性作物であることから、一年生作物に比べて気候に対する適応性の幅が狭く、気候変動に対して脆弱な作物とされ、果実品質の低下をはじめとして、隔年結果*1(かくねんけっか)の増大、生理落果*2 の助長等の影響を受けやすいとされている。

具体的には、成熟期のりんごやぶどうの着色不良・着色遅延、果実肥大期の高温・多雨によるうんしゅうみかんの浮皮*3(うきかわ)、高温・強日射による果実の日焼け、日本なしの秋期から初冬期の高温による発芽不良、収穫期前の高温・乾燥等によるみつ症の発生等が報告されている。

  • *1隔年結果:果樹の収穫量が1年おきに増減する現象
  • *2生理落果:日照不足、乾燥、高温等により果実が自然に落ちる現象
  • *3浮皮:果皮と果肉が分離する現象で品質低下をもたらす

影響の将来予測

将来予測される影響としては、うんしゅうみかんやりんごは、気候変動により栽培に有利な温度帯が年次を追うごとに北上するものと予測されている。この予測を踏まえれば、既存の主要産地が栽培適地ではなくなる可能性もあり、その結果、これらの品目の安定生産が困難となり、需給バランスが崩れることにより、価格の高騰や適正な価格での消費者への安定供給を確保できなくなることも懸念される。

さらに、りんごについては、生鮮果実の輸出 額の7割を占めるなど、我が国の農業分野における主要な輸出品目として位置づけられているが、気候変動により国内でのりんごの生産不安定になった場合、輸出戦略面でも支障を来しかねないことが懸念される。

ぶどう、もも、おうとう等については、既存の主要産地が栽培適地ではなくなる可能性のほか、高温による 生育障害が発生することが想定される。

影響土地利用型作物(麦、大豆、飼料作物等)
影響評価結果:
土地利用型作物
(麦、大豆、飼料作物等)
重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:中程度 確信度:中程度

現在の影響

農業現在の状況としては、麦類では、暖冬による茎立*1(くきだち)や出穂の早期化とその後の春先の低温や晩霜(ばんそう)による凍霜害の発生、生育期全般の多雨による湿害の発生等が見られる。

大豆では、生育初期の多雨による湿害や開花期以降の高温・干ばつによる落花・落莢(らっきょう)、青立ち*2 等の発生が見られる。

小豆では、北海道(道央・道南)において、成熟期の高温による小粒化等が見られる。

茶では、生育期間の高温・干ばつによる二番茶以降の新芽の生育抑制、暖冬による萌芽(ほうが)の早期化及び春先の晩霜による凍霜害の発生等が見られる。

てん菜では、夏から秋にかけての高温・多雨による病害の多発等が見られる。

  • *1茎立:茎が伸び始め、地面近くを這っていた葉が直立し始めること
  • *2青立ち:莢着きが不良で、収穫期になっても茎葉が枯れない現象

影響の将来予測

将来予測される影響としては、小麦では、暖冬による茎立や出穂の早期化とその後の春先の低温や晩霜による凍霜害リスクの増加、高温のため登熟期間が短縮されることによる減収・品質低下等が予測されている。

大豆では、最適気温以上の範囲では、乾物重*1(かんぶつじゅう)、子実重、収穫指数*2 の減少が予測されている。

北海道では、2030年代には、てん菜、大豆、小豆で増収の可能性もあるが、病害虫発生、品質低下も懸念され、小麦等では減収、品質低下が予測されている。

  • *1乾物重:乾燥して水分を除いた後の重さであり、植物が実際に生産、蓄積した物質の重さ
  • *2収穫指数:全乾物重に対する収穫部位の乾物重の割合
影響園芸作物(野菜)
影響評価結果:
園芸作物(野菜) 重大性:現状では評価できない 緊急性:中程度 確信度:中程度

現在の影響

農業現在の状況としては、露地野菜では、キャベツ等の葉菜類、ダイコン等の根菜類、スイカ等の果菜類等の収穫期が早まる傾向にあるほか、生育障害の発生頻度の増加等も見られる。

施設野菜では、夏季の高温によるトマトの着果不良、裂果、着色不良等、生育期間の高温によるイチゴの花芽分化の遅延等が見られる。また、高温回避のための遮光による光合成の低下、高温によるマルハナバチ等の受粉活動低下、大雪等による施設の倒壊等の影響が見られる。

花きでは、夏季・秋季の高温による開花期の前進・遅延、奇形花、短茎花、茎の軟弱化等の生育不良等が見られる。

影響の将来予測

将来予測される影響としては、野菜は、栽培時期の調整や適正な品種選択を行うことで、栽培そのものが不可能になる可能性は低いと想定されるが、さらなる気候変動が、野菜の計画的な出荷を困難にする可能性がある。

影響畜産
影響評価結果:
畜産 重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:中程度 確信度:中程度

現在の影響

現在の状況としては、家畜では、夏季の平年を上回る高温の影響として、乳用牛の乳量・乳成分・繁殖成績の低下や肉用牛、豚及び肉用鶏の増体率の低下等が報告されている。

飼料作物では、栽培適地の移動や夏季の高温、少雨等による夏枯れ、虫害等が報告されている。

影響の将来予測

将来予測される影響としては、畜種や飼養形態により異なると考えられるが、夏季の気温上昇による飼料摂取量の減少等により、温暖化の進行に伴って肥育去勢豚や肉用鶏の成長への影響が大きくなるとともに、増体率が低下する地域が拡大し、その低下の程度も大きくなることが予測されている。

飼料作物では、牧草の生産量等について地域的に予測した研究があるが、増収・減収等について全国的な傾向は予測されていない。

影響病害虫・雑草・動物感染症
影響評価結果:
病害虫・雑草・動物感染症 重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:高い 確信度:高い

現在の影響

※写真掲載予定害虫については、水稲や大豆、果樹など多くの作物に被害をもたらすミナミアオカメムシは、西南暖地(九州南部などの比較的温暖な地域)の一部に分布していたが、近年、関東の一部にまで分布域が拡大し、気温上昇の影響が指摘されている。

影響の将来予測

害虫について、水田では、寄生性天敵や一部の捕食者及び害虫の年間世代数がそれぞれ増加し、害虫・天敵相の構成が変化すると予想されている。野菜・果樹・茶のチョウ目やカメムシ類などの害虫では、越冬可能地域の北上・拡大や年間世代数の増加により被害が増大する可能性が指摘されている。またウンカなどでは、海外からの飛来状況が変化する可能性が指摘されている。

病害については、これまで、明確に気候変動により増加した事例は見当たらないとされているが、野外水田で人為的に作り出した高CO2条件下(現時点の濃度から200 ppm上昇)では、イネ紋枯病やイネいもち病などの発病の増加が予測された事例があることから、他の病害についても、気候変動による発生拡大が懸念されている。

このように、国内の病害虫の発生増加や分布域の拡大により、農作物への被害が拡大する可能性が指摘されている。また、気候変動にともない、国内未発生の病害虫が国内に侵入し、重大な被害をもたらすことが懸念されている。

雑草については、奄美諸島以南に分布していたイネ科雑草が、越冬が可能になり、近年、九州各地に侵入・定着した事例があり、一部の種類において、気温の上昇による定着可能域の拡大や北上の可能性が指摘され、農作物の生育阻害や病害虫の宿主となる等の影響が懸念されている。

動物感染症については、病原体を媒介する節足動物の生息域や生息時期の変化による疾病流行地域の拡大や流行時期の変化、海外からの新疾病の侵入等が懸念されている。例えば、蚊、ヌカカ等の節足動物が媒介するアルボウイルス(節足動物の吸血により感染するウイルス)感染症が西日本を中心に浸潤しているが、気候変動により節足動物の生息域が北上するなどの変化が生じていることが示唆されている。このように、家畜の伝染性疾病の流行地域や流行期間が拡大するなど、家畜の伝染性疾病の流行動態に変化の兆しが認められている。

また、今後、鳥インフルエンザの我が国への主な侵入要因と考えられる渡り鳥の飛行経路や飛来時期に変化が生じることで、我が国への鳥インフルエンザの侵入リスクに影響を与える可能性がある。

影響農業生産基盤
影響評価結果:
農業生産基盤 重大性:特に大きい(社/経) 緊急性:高い 確信度:中程度

現在の影響

農業生産基盤に影響を与える降水量については、多雨年と渇水年の変動の幅が大きくなっているとともに、短期間にまとめて雨が強く降ることが多くなる傾向が見られる。また、高温による水稲の品質低下等への対応として、田植え時期や用水管理の変更等、水資源の利用方法に影響が見られる。

影響の将来予測

極端現象(多雨・渇水)の増大や気温の上昇により全国的に農業生産基盤への影響が及ぶことが予測されており、特に、融雪水を水資源として利用している地域では、融雪の早期化や融雪流出量の減少により、農業用水の需要が大きい4月から5月の取水に大きな影響を与えることが予測されている。また、集中豪雨の発生頻度や降雨強度の増加により農地の湛水被害等のリスクが増加することが予測されている。

影響食品・飼料の安全確保(穀物等の農産品及びその加工品、飼料)

現在の影響

土壌中には多くの種類のかび(真菌)が生息しているが、その中には農産物に感染して、品質や収量の低下をもたらす病害や、食品や飼料の安全性において問題となるかび毒*1 汚染を引き起こすものがある。かび毒の中でもアフラトキシン類は極めて毒性が高いことが知られており、我が国でも食品や飼料に基準値が設けられている。現状では、国産農産物や飼料において基準値を超えるような重度のアフラトキシン類の汚染はほとんど確認されていない。しかしながら、国内の土壌のアフラトキシン産生菌の分布調査において、その分布の限界と年平均気温とが高い相関があること、1970年代に比べてその分布域が拡大している可能性があることが報告されている。なお、他のかび毒による汚染についても、現状では、人や家畜の健康被害を生じるおそれのないレベルで推移していることを確認している。

  • *1かび毒:かびによって作られる天然の化学物質のうち人や家畜に有害な作用を示すもの

影響の将来予測

将来予測される影響としては、年平均気温の上昇、農作物や飼料作物の生育期間中の多雨、渇水の発生の増加等により、ほ場土壌等のかび毒産生菌(特にアフラトキシン産生菌)の分布や生息密度が変化し、国産農産物や飼料中のかび毒の汚染状況が変化する可能性がある。

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