TCFD提言を踏まえたシナリオ分析

日清食品ホールディングス株式会社

業種:製造業
掲載日 2022年8月24日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

日清食品ホールディングス株式会社ロゴ

日清食品ホールディングス株式会社は、日清食品グループの持株会社として、グループ全体の経営戦略の策定・推進、グループ経営の監査、その他経営管理などを行っている。またグループの事業範囲は、即席麺の製造および販売、チルド食品の製造および販売、冷凍食品の製造および販売 菓子、シリアル食品の製造および販売、乳製品、清涼飲料、チルドデザート等の製造および販売など幅広く展開している。

気候変動による影響

食を創り出す企業で構成される日清食品グループは、気候変動によって原材料価格の高騰や製造工場の被害、消費者の購買活動の変化などさまざまな影響を受けることから、気候変動を重要な経営リスクの一つとして位置付けている。

取り組み

日清食品グループでは、2019年5月にTCFD提言への賛同を表明し、また同年からシナリオ分析に着手した。

2030年以降の3つのシナリオ(注1)(図1)について、日清食品グループへの移行・物理リスクとして挙げられる炭素税関連リスク、水リスク、原材料調達リスク(図2)が財務に及ぼす影響を分析した。日清食品グループへの影響度の高い気候変動リスクとして以下の結果が得られた。

  1. カーボンプライシング
    シナリオ分析の結果、SBT目標達成に取り組んだ場合、2030年で年間約11億円、2040年で約32億円を削減できる可能性が示された。
  2. 製造拠点および取引先製造工場における物理的リスク(風水害および水リスク)
    製造拠点である国内工場29拠点と、海外工場23拠点において、4種の災害(「洪水」「高潮」「干ばつ」「水ストレス(水不足)」)がそれぞれ発生した際の被害の変化を分析し、以下のような結果を得た。なお、分析期間とRCPシナリオ(注2)は災害ごとの設定を変えて分析した。

    【洪水】
     将来におけるリスク変化はみられなかった。

    【高潮】
     高リスクの製造拠点は国内の3拠点から4拠点となった。

    【干ばつ】
     海外(南米と欧州に位置する拠点)にて、高リスクとなることが判明した。

    【水ストレス (水不足)】
     Aqueduct Water Risk Atlas(注3)で公開された水ストレスの将来予測結果を用いて評価したところ、リスクが最も高い拠点は国内で4拠点、海外で7拠点あることが判明した。

  3. 原材料調達リスク
    シミュレーションモデル(注4)、RCP(注2)、SSP(注5)を用いて、製品に使用する主要な原材料である「小麦」「大豆」の単位面積当たりの収穫量と、「エビ・イカ」の漁獲可能量の変化を主要産地ごとに評価した(図3)。
    評価結果を踏まえてリスクを分析したところ、エビやイカなどの海産物については漁獲可能量が減少傾向にあるものの、小麦、大豆も含め原材料の調達において事業に深刻な影響を与えるリスクは小さいことが判明した。
    既に活用しつつある代替食技術(注6)は漁獲量可能量の減少リスクをある程度抑えられると見込んでいる。
    また、「パーム油」についてのリスク評価は、シミュレーションモデルが入手できなかったため、国際自然保護連合などの報告書(注7)とIPCCの地域別気候変動シナリオを用いて分析した結果、マレーシア・インドネシアにおいてRCP2.6では収穫量減が懸念されるものの栽培継続は可能、RCP8.5では栽培適域の減少に伴う収穫量の減少が判明し、より詳細な分析を行い財務に与えるインパクトを算出していくこととなった。

効果/期待される効果等

シナリオ分析の結果、主要な原材料の調達に関わるリスクが日清食品グループの中長期的な成長を阻む可能性は少なく、対策を講ずることで財務への影響を最小限に抑え、レジリエンス経営を推進することが可能と判断した。ただし、温室効果ガスに対する排出規制が強化され炭素税が上昇した場合、日清食品グループの収益に与える影響が大きくなる可能性がある。移行・物理リスクは不確実性が高いため、今後も影響度の試算をつづけていく。

今回想定した3つのシナリオ

図1 今回想定した3つのシナリオ

主なリスクによる財務への影響度とその対応策 (適応策)

図2 主なリスクによる財務への影響度とその対応策 (適応策)

小麦・大豆の収穫量の変化(%)と漁獲可能量の変化(%)

図3 小麦・大豆の収穫量の変化(%)と漁獲可能量の変化(%)

脚注
(注1) IPCCレポート、IEAレポートに基づき作成。
(注2) IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の温暖化の進行に関するシナリオ (RCP:代表的濃度経路)。RCP2.6 (1986~2005年を基準としておおよそ1°C前後の上昇)、RCP6.0 (おおよそ2°C前後の上昇)、RCP8.5 (おおよそ4°C前後の上昇) 。
(注3) 世界資源研究所(WRI:World Resources Institute)が提供する、水リスクを評価するためのツール。
(注4) 【小麦】農業・食品産業技術総合研究機構“Responses of crop yield growth to global temperature and socioeconomic changes”における分析モデル/USDA (米国農務省)“Climate Change and Agricultural Risk Management Into the 21st Century”における分析モデル。
【大豆】農業・食品産業技術総合研究機構“Responses of crop yield growth to global temperature and socioeconomic changes”における分析モデル。
【エビ・イカ】FAO (国連食糧農業機関)“Projected changes in global and national potential marine fisheries catch under climate change scenarios in the twenty-first century. In: Impacts of climate change on fisheries and aquaculture, 63.”における分析モデル。
(注5) 社会経済に関するシナリオ (SSP:共通社会経済経路)。
(注6) 即席めんの具材であるイカの食感や味を再現する技術、“ほぼイカ”としてコミュニケーションを実施(https://www.nissin.com/jp/news/8979)。
(注7) IUCN, Oil palm and biodiversity, June 2018、及びSEnSOR, Potential Impacts of Climate Change on Oil Palm Cultivation, December 2017。

ページトップへ