Staff interview #04
岩渕 裕子(IWABUCHI Yuko)
田中 弘靖(TANAKA Hiroyasu)
浅野 絵美(ASANO Emi)写真左から

チームワーク抜群の気候変動適応推進室の高度技能専門員3名の方にお話を伺います。担当は、気候変動適応推進に向けた地方自治体や事業者の方々への業務支援などです。

気候変動適応センター(CCCA)では、どのような仕事をしているのですか?

田中:CCCAは4つの室から成り立っていますが、私たち3人はその内のひとつ「気候変動適応推進室」に所属しています。研究職というより行政職的な色彩が強く、他室と連携しながら広く適応の推進と研究成果の社会実装を目指しています。

具体的には、地方公共団体や事業者のみなさんが適応のための計画を立案したり、それを実践したりする上で役立つ情報や科学的知見の提供を行っています。とはいえ、『適応』はまだまだ一般に浸透していないため、企業や市民のみなさんにまず知ってもらうための普及啓発にも努めています。
この記事を読んで『適応』に興味を持っていただければ嬉しいですし、これをきっかけに私たちに声をかけていただければと思っています。

具体的な活動内容を教えてください。

浅野:私の仕事のひとつに、行政の方へ向けた「地域気候変動適応計画」の策定支援があります。計画で対象とする分野は多岐にわたるため、環境部局の方だけで策定することは難しいです。他部局の方々とも協力しながら進めていくために、「そもそも適応とはどういうものなのか?」というのを、環境部局の方が説明するための資料の提供等をさせて頂いています。また、計画案に記載されている気候変動影響予測・評価や適応策について、科学的視点からアドバイス等させていただくことも行っています。まず、「現在、どういう影響が出ているのか?」、次に「将来、どういう影響が予測されているのか」、3番目に「その影響に対して、どのような適応策が考えられるか」。この3段階それぞれのステージで情報提供しています。
※環境部局(国に環境省があるように、地方自治体の中にも必ずある“環境”にまつわる仕事をする部署)

企業への具体策を教えてください。

田中:みなさんも、地球の温暖化が進むことにより、すでに地域や企業活動そのものに影響が出ていることに気付かれていると思います。最近の台風や豪雨の被害はたいへん深刻なことになっています。

気候変動に対し、企業が取り組まなければならない視点はふたつあります。ひとつは、どうリスク管理をしていくかということ。例えば自分たちの工場を浸水被害から守るためには、周囲に堤防を築く必要があるのか、それとも工場そのものを高い場所へ移転させる必要があるのかなど、考えなければなりません。ことが起こってからでは、甚大な損害を被る可能性がありますよね。
また、このところ問題になっているのは夏場の屋外労働。例えば、農業従事者や建設作業従事者の方々にとって熱中症対策は急務です。熱中症にかかるリスクは年々上がっており、さらにコロナ禍でマスク着用の問題も重なり、リスクが複合化しています。こうしたリスクにどう対処するのか。目の前の課題が気候変動の影響であることを意識せずに対処している企業に、情報を提供していくことも必要だと考えています。

もうひとつは、この気候変動をチャンスと捉え、新しいビジネスを生み出すという視点です。例えば、アメリカの保険会社では、温暖化によって作物に甚大な被害が起きたときのための保険を販売しています。また、農業の分野では、気候変動の影響で「今まで作れなかった作物が作れるようになる」という側面もあります。これまで北海道は、その寒冷な気候からフランス原産のワイン用ブドウ栽培には向かないと言われてきましたが、温暖化によってこの状況も変わってきました。水産業の分野でも、獲れる魚が変わることは新たなビジネス機会にもなりますが、一方加工設備の変更など負担も生じます。気候変動をビジネスチャンスとしてどう捉えていくのか、今後はここに焦点が当たってくると思っています。

企業のみなさんは、被害が大きければ対策を立てますし、また儲かれば自然と新規事業に取り組むと思います。今後は、気候変動対策は企業として事業継続上避けられない、より基本的な課題になっていくと思います。こうした点を啓蒙しつつ、いかに対策を加速させるかが私たちの役割です。

次に市民のみなさんへ向けての取り組みを教えてください。

岩渕:CCCAではA-PLATを通じて国、地域、事業者、個人など様々なレベルの「適応」に関する情報を提供しています。その中で「適応」をわかりやすく説明するためのパンフレットや資料などの各種コンテンツの提供も行っており、広く市民のみなさんへ向けて発信もしています。今後、市民のみなさんの素朴な疑問にもお答えしつつ、適応に興味を持ってもらえるようなコンテンツの開発をしていきたいです。

温室効果ガスの大気中への排出を減らすために「二酸化炭素などの排出量を減らしましょう」というのは“緩和”ですが、その悪影響をできるだけ軽減するために備えていこう、逆に影響による変化をチャンスにして社会の生活をより良いものにしていこうという考え方が『適応』なんですね。自治体の環境部局の方も他の部署へ説明するときに「適応って何?」と聞かれることが多いそうですし、企業のみなさんの中でも「何だろう?うちのビジネスに何か関係があるのだろうか?」などと思われる方がまだまだ多いと思います。これは市民のみなさんも同じなので、まずは適応という言葉に興味を持っていただくことが大事だと考えています。

【ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編】
 https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/qa/index.html

A-PLATでは地域気候変動適応センターのインタビューや取組の紹介、適応計画や地域気候変動適応センターの設置状況などを掲載しています。内閣府、総務省、農林水産省、経産省、国土交通省など、日本の府省庁のあらゆるところで本当は適応への取組を実施しているので、今は情報が盛りだくさんです。私自身もコンテンツを全部きちんとと把握しきれていないような状況です。みなさんにも、興味があるところからページを覗いていただいて、関心や理解を深めていただけたらうれしいです。まずは“適応”のファンになっていただく、またより積極的に、プレーヤーとして活躍いただける方のご参加をお待ちしています。

みなさんは、CCCAへ来る前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?環境に関する仕事に取り組みはじめたきっかけも一緒に教えてください。

田中:私は学生時代から環境分野に興味を持っていました。大学では、ランドスケープデザインやプランニングの勉強をしていました。まちづくりにたいへん興味があり、卒業後は建設会社に就職。地域開発事業、土木事業、海外事業などに携わり、後半は環境本部という部署で建設事業に関わる様々な環境問題に取り組んできました。

浅野:子供の頃から外遊びや家族との登山などで自然に親しんでおり、メダカやトンボが生息するような身近な自然環境を守っていきたいなという気持ちがありました。大学では森林生態学を専攻し、研究室に入ってからは里山林から天然林まで本当に沢山の山を歩き、森林の調査方法や、森林の見方を徹底的に叩き込まれました。また、この研究室で必死に努力し続ける大切さを学びました。卒業後は環境コンサルティング会社へ入社しました。海外の森林調査に行かせていただいたり野生絶滅種の保護増殖後の野生復帰に関わる森林整備方針の検討などに関わらせていただきました。また、小笠原諸島における外来種対策を通じた森林生態系の修復事業にも長年従事していました。この会社で常に新しいアイデアを出し続けそのアイデアを形にして成果を出すこと、仕事は自分で作っていくもの、ということを学びました。
その後、転居した土地で別分野の仕事に従事しましたが、そこで多くの関係者と調整する業務を経験し、全体を見る大切さも学びました。今までの仕事の経験全てが今に繋がっており、それぞれの環境で一生懸命やってきて本当に良かったと思っています。

岩渕:私は高校生のとき、地学の授業を選択したことが地球温暖化について学ぶきっかけとなりました。地球の長い歴史の中では、環境の激変や生物の大絶滅などが何度も起きており、今私たちが生きている地球環境が本当はとても脆いバランスの上に支えられているんだなぁと思い至り、「自分たちが住む環境は自分たちが適切に保つ努力をしていかなきゃ」と思ったのが、環境問題に取り組み始めるきっかけになったんですね。大学では、自然史を専攻しました。地球の生物を分類したり、生物の進化を学んだりする学問ですが、中でも、特に植物に興味を持ち、卒業研究を行いました。関連して環境教育という分野も学びました。社会人になってから大学院で環境政策や環境ビジネスについても学びました。

博物館のアテンダントや森林公園の管理事務、地球温暖化対策の“緩和”の普及啓発に関わるNGOなど、職務経験はいろいろでまとまらないのですが、実は以前も国環研で働いていたことがあるんですよ。低炭素社会の研究や、持続可能社会に関する研究のほか、今と同じように普及活動やコミュニケーションに関する業務に従事していました。「適応」という分野に取り組むのは、私自身も初めてなんですが、CCCAではこれまでの経験が活かせるのではないかと考えております。地球温暖化問題への取組という点では、もうかれこれ10年以上関わっています。

いつもお忙しくされていると思いますが、趣味などはありますか?

田中:国内外問わず、旅行好きですね。登山など、自然に触れることが好きです。海派か、山派かといえば山派ですが、海釣りにはよく出かけます。家族にはどうも不評で「絶対、魚屋に直行した方がいい!」といわれるのですが(笑)。魚がかかったときの感覚、やっぱり最高です!山はすごく解放的な気分になれるので、なんとなく煮詰まったときに行って、リセットして帰ってくるようにしています。

浅野:私は会社と家を往復する車内で音楽を聴くことが息抜きです。その時間で気持ちを切り替え、職場に着いたら全力で仕事、家へ帰ったら家族との時間を大切にするようにしています。週末は末っ子とよく虫捕りをしていて、今はコクワガタを家で越冬させています。

岩渕:読書や散歩、サイクリング、登山のほか、イラストを描くのも好きですね。あとは「省エネ」(“緩和”と”適応”の実践)でしょうか。私の生活における「CO2排出量」は年間300〜400kg-CO2程度なんですよ。日本の1人当たりの家庭生活に係るCO2排出量は平均年間1,900kg-CO2ぐらいなので、だいぶん抑えられています。東京在住の際も、つくばでの今年の夏も、エアコンは使わず扇風機で乗り切りました。仙人みたいな生活をしていると言われますが、テレビも見ますし、電子レンジも使いますし、もちろんお風呂にもちゃんと入ってます(笑)。ただ、車の免許は持ってなくて、移動は基本的に自転車。その部分でかなりCO2排出量を減らせているのかも? もちろん、ひとり暮らしで自分一人が納得すればいいからこそできることも多いですし、ほかの方にも同様の取組を勧めるつもりはありませんが、「工夫次第でここまでできるよ」と話のタネにしてもらえればと思っています。自宅の省エネは、これからもできるだけ工夫して、エネルギーをなるべく使わずとも乗り切れる部分を探していきたいなと思っています。

最後にこれからの目標を教えてください。

田中:長年従事してきた「建設」というフィールドにとらわれず、さらに広い視野で環境問題に取り組むことです。社会ニーズと研究テーマのマッチングや研究成果と社会実装のつなぎ役として役割を果たしていきたいと考えています。
最近プライベートで「全国通訳案内士」の資格を取得しました。昔から国立公園のパーク・レンジャー(自然保護官)にも憧れていたので、インバウンド向けのツアーなどをお手伝いすることができないかと密かに考えているところです。いずれ今の仕事ともマッチングできるといいのですが。

浅野:数年前に茨城へ転居することになって、「どうしても国環研で働きたい!」という気持ちから求人に応募し、CCCAに着任することができました。環境コンサルティング会社にいたときから、国環研のホームページを拝見していましたし、国環研の研究者の方とお仕事させていただいたこともあり、今はCCCAで働けて本当にうれしく思っています。今までも、研究者の方の成果を行政の方や現場に繋ぐことにやりがいを感じていたので、これまでの経験を生かすことができたらいいなと思っています。
今後は、散在している適応策の情報を整理し、A-PLATを見れば各分野の適応策が体系的に理解できるようにしたいと思っています。そのための勉強も続けたいと思っています。加えて、適応策と他施策間の効果も分かりやすく示すことができれば、と思っています。また、地域気候変動適応計画への支援や、GISを用いた情報発信支援についても引き続き取り組みたいと思っています。

岩渕:適応にどうやって興味を持っていただくか。気候変動への適応は、1人1人が頑張っても仕方がないので、一般市民のみなさん、自治体のみなさん、事業者のみなさんに共に取り組んでいただかなければと考えています。そのためのネットワークづくりに貢献していきたいと思っています。また、自分の「省エネ行動」もネタにして、適応の大切さ、楽しさや興味深さを伝えられたらと考えています。将来的には、自分で小さな家屋を建てて、再生可能エネルギーにも頼りつつ、生活に必要なエネルギーは自分の力でまかなえる家を作るのが夢です。

「気候変動適応推進室」で研究者と外部を繋ぐ、さまざまな取り組みをするみなさん。異なるバックグラウンドだからこそ生まれる、三者三様の新しい視点。今後のご活躍をお祈りしています。ありがとうございました !
取材日:2020年9月8日

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