マングローブ林の保全・再生

掲載日 2023年10月20日
分野 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響

マングローブ林は、熱帯、亜熱帯の潮間帯に広がる典型的な沿岸生態系であり、1)生物の生息地の他、2)食料や材料の供給、海岸防護、洗堀対策、水質浄化、漁業への寄与、炭素貯留、観光などのさまざまな生態系サービスを供給している。3)

2000年以降に減少したマングローブ林の60%は、直接もしくは間接的な人間活動によるものであり、このうちの47%が水産養殖や農業のためのマングローブ林の転換である。4)

気候変動による影響としては、海面水位の上昇による分布域の縮小や内陸側への移動が予測されている。特に、後背地が構造物等で分断されている場合は、土砂の利用可能性や移動分散を妨げ、より影響が悪化するとされている。

(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用、一部CCCAにて参考文献を参照し追記)

取り組み

適切な植林技術を活用することでマングローブ林を保全・再生し、海岸浸食の抑制や稚魚の生息場の創出、炭素固定等の機能を発揮させる。

マングローブ林の植林地の選定 マングローブは潮間帯のうち、平均海水面から大潮高潮位の間に生育し、樹種によって生育に適した塩分が存在する。そのため、植林地の選定にあたっては、地盤高及び塩分の測定が必要となる。これらの情報をもとに、樹種を選定する5)
苗畑の造成 育苗技術が確立している樹種は一部のみであるため、植林する地域において技術が確立している種を選択する。また、苗畑の地盤高は自然灌水(潮汐)による養苗が可能な地盤高とし、海水が停留するような場合は排水溝を設置する5)
直挿し(胎生種子) 使用する種子は、虫による食痕、変形したものを除き、健全な種子のみを使用する。土の中に埋め込む際は、種子の長さの1/3程度を目安にする5)
植穴(育苗した苗木) 植穴が浅すぎると植栽木の倒伏や流失が生じるため、ポット苗の根際と地盤の高さが同じになるように調整し、ポットと同じ大きさの植穴で植え付けを行う5)

活用事例

沖縄県(うるま市州崎島)におけるマングローブ林再生の取り組み

うるま市州崎では、中城港湾域埋立事業の際、水際の動植物を保全するため、マングローブ湿地を設置した。

うるま市州崎のマングローブの様子
出典:マングローブ植栽指針, 沖縄県(2023年2月10日閲覧)、おきなわ環境クラブ(写真)

期待される効果等

マングローブ林は、波や流れの作用を弱め、海岸浸食を抑制する。6)また、津波や高波も減衰させる。7,8)加えて、強風、飛砂、塩害から家屋や農地、交通機関等を保護する防風林としての機能を持つ。9)

ほか、窒素やリンの除去による水質浄化機能を有している。10)

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 多様な生息環境の創出(隠れ家・生育場)
マングローブ生態系は、生物多様性に富み第一次生物生産能力は極めて高い。10)また、稚魚の揺籃の地「生命のゆりかご」とされ、世界で漁獲される魚の約30%がマングローブで育成されている。10,11)
緩和策 炭素固定
マングローブ林は成長とともに樹木として炭素を貯留する上、海底の泥の中には枯れた枝や根を含む有機物が堆積し、炭素を貯留し続ける。12,13)

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • 国内の事例によると、マングローブの植栽により、マングローブ域が拡大することによる干潟域の減少、従来マングローブが生育していない場所に植栽することによる生態系等への影響、外来種としての影響、土壌の質に及ぼす影響、河川の加工断面の縮小への影響などの問題点が生じる可能性がある。そのため、マングローブを植栽するにあたっては、環境・生態系に配慮して、秩序ある植栽をすることが重要となる。14)

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報

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