インタビュー適応計画Vol.10 豊田市

環境先進都市 豊田市の気候変動対策

取材日 2021/9/13
対象 豊田市環境部環境政策課 担当長 愛川遼
豊田市環境部環境政策課 主査 竹内晨

豊田市における気候変動適応推進の経緯をお聞かせください。

愛川さん:豊田市では、早くから地球温暖化対策や持続可能なまちづくりに取り組んできました。2009年には環境モデル都市に選定され、2018年にはSDGs未来都市にも選ばれました。2018年に作られた豊田市環境基本計画には、当時まだ出始めだった「適応」という言葉にも触れています。
2019年にはゼロカーボンシティ宣言をし、当時市長にも「気候のフェーズが変わったことから、緩和策だけでなく、本格的に適応策にも取り組んでいこう」と提言され、地域気候変動適応計画を策定する運びとなりました。

地域気候変動適応計画策定に向けた、具体的な取り組みについて教えてください。

竹内さん:まず前段階として、考え方の共有から始めようということで、2018年から年に1度、学識者・有識者を招いた職員向けの適応セミナーやワークショップを3年間にわたって行ってきました。それにより、職員の認知度が約40%まで向上し、かなり浸透してきたことを実感しています。e-Learningやアンケートをこまめに実施し、フィードバックを次のセミナーに活かすなどしながら、2025年度までに認知度を80%まで上げることが目標です。
豊田市は、気温の高い岐阜県多治見市に近いこともあり、かなり暑い街です。事故防止の理由からも、熱中症について取り組まなければいけないという課題感はありました。そこで、2019年から暑熱調査を始めています。まずは豊田市のなかでも中央にあたる高町と、標高700mのところにある稲武の2か所をポイントとして、気象庁のアメダスデータを利用して情報収集を行いました。そのほか、サーモカメラを利用したり、過去の猛暑日を計算機上で再現した暑熱日シミュレーションから暑熱パターンを解析したりと、さまざまな調査を行っています。
調査だけでなく、市民向けの熱中症予防セミナーや、地域の健康に関する活動をされている指導者向けのセミナーも開催しました。市民向けセミナーについては打ち水体験も行い、打ち水前後で気温を測ってその効果を実感していただくなど、活動は多岐にわたります。

計画策定においてインパクトチェーンという手法を取り入れていらっしゃいました。その手法に注目されたきっかけや取り組み状況をお伺いします。

竹内さん:2019年度に暑熱調査を行い、同時に市民生活への影響も整理しました。2020年度には適応計画のための基礎調査と計画の骨子作成のために、庁内および市内の事業者、関連団体へのヒアリングを実施し、市民の意見を聞くためのワークショップも開催しています。
計画策定に係る外部委託先を選定する際に、評価軸として重視したポイントが3つあります。まず、適応計画の全体像をどのように伝えていくか。次に、地域の特性をどう見せるか。最後に、計画指標をどう管理するか、という点です。特に、当時まだ適応計画と呼べるものがほぼない状態で適応法が施行されて、計画指標を置いて管理している行政計画がまだ少なかったので、具体的な進め方には課題も多くありました。そんななか、プロポーザル方式で事業者の方々にいろいろと提案をいただき、インパクトチェーンという手法に着目したことがきっかけです。それから我々も勉強しながら、全7分野において作成してみたというのが現状です。

愛川さん:この手法を導入したことで良かった点は大きく二つです。まず、各関係部局や事業者にヒアリングをすると、「適応とはなにか」というところから始まるんです。そこで「これが気候変動の影響かはわからないけれど」と前置きして、いろいろな話をしてくださるんですね。インパクトチェーンを使うと、そういったヒアリング事項をきちんとまとめることができるうえ、課題整理もひとつのシートのなかで実施できます。そして、その影響自体が未来にどう繋がっていくのかが可視化できるところです。いまは、ヒアリング先にフィードバックを行っているのですが、最初にヒアリングしたときはぼんやりしていたものが、ひとつの絵にすることで「暑さの影響でこういうことが起きるよね」とお互い理解し、テーブルで議論ができるようになりました。関係部局も事業者も、同じ絵を見ながら「こういうことも考えられるんじゃないの?」「今後はこういうことをやっていかなければ」などと、意見が言いやすくなったのも大きな成果です。

計画策定の過程において、適応と緩和のバランスはどのように検討されていますか。

愛川さん:豊田市は、緩和策と適応策、両輪で対策をしていかなければいけないという考え方です。そこで、市民のみなさんにわかりやすく気候変動適応を理解していただくために作った「気候変動のリスクと機会の輪」という図があります。3重の輪の真ん中はオレンジ、その外は赤、一番外側は最も濃い赤で、オレンジは現状、赤は厳しい温暖化対策を取った場合、濃い赤は厳しい温暖化対策を取らなかった場合を表現しました。厳しい温暖化対策を行ったとしても、今後いろいろな影響が出てきてしまうし、何もしなければさらに酷い影響が現れる…ということを表しながら、その対策、いわゆる緩和策について記載しています。

気候変動について話すと、とかく暗い将来をイメージしてしまいがちです。しかし、適応社会と言われる現在、楽しみながら社会を作っていかなければ意味がないですし、それこそが計画の意義だろうという話になりました。そこであえてひとつ緑色の項目を作り、気候変動を利用して新たなビジネスが生まれるチャンスもある、という話を加えています。たとえばEVやFCVの普及、あるいは気候変動にあわせた服装など、事業者にとっては新規ビジネスのタイミングでもあるわけです。そこもしっかり見せていこうという意図で作りました。

竹内さん:環境部のなかですら「適応ってなんだろう?」という思いがずっと残っていました。緩和が重要ということは理解しやすいのですが、緩和と適応を並べたときの両輪については非常に理解しづらいのです。そこでまず、概念的にひとつにまとめてみました。

気候変動対策について、インパクトチェーンの導入や表の作成など、積極的な取組みに刺激を受けます。そこまで情熱を注がれるモチベーションや、やりがいについて教えていただけますか。

愛川さん:気候変動適応はまだ理解されづらいですし、取り組みを行ったからといってすぐに結果が出るものでもありません。評価軸もさまざまですし、いったい何をやっているの?というふうに見られがちなところがある一方で、こういった取り組みを進めていったことにより、2021年4月から市の総合計画に気候変動適応策が重点事業として位置付けられました。市の総合政策なので、マスタープランの重点に位置付けられたということで、かなりみなさんの意識も変わったのではないかと思います。その他、関係部局にインパクトチェーンの図を見せながら、行政計画の見直しのときに「気候変動適応」という言葉を入れてもらうための交渉をしているのですが、前向きに動いてくださっているところを見ると、着実に変化していることを実感し、業務のやりがいに繋がります。

竹内さん:環境部に来るまで、私は数字として目に見えるもの以外のことはよくわからないのであまりやりたくない、とすら思っていました。ですから、最初はよくわからないものを可視化しよう、そして仕組みを作って動くようにしたい、という気持ちをベースにやってきたという経緯があります。そして実際に計画を作り、ヒアリングを重ね、わかっていることとわかっていないことを整理して、どう環境問題に取り組んでいったらいいのか、ようやく少し見えてきたかなと感じています。まだ「適応」という言葉が誕生してからも日が浅いと思いますので、まずは土台づくりをして種を蒔き、小さな芽が少しでも見えた瞬間にきっとやりがいを感じられるのだろうなと思いながら、試行錯誤を続けているところです。

この記事は2021年9月13日の取材に基づいて書いています。
(2022年4月15日掲載)

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