インタビュー適応計画Vol.9 郡山市

郡山市・こおりやま広域圏における気候変動適応推進の取組

取材日 2020/11/26
対象 郡山市環境部 次長 羽田康浩
郡山市環境部環境政策課 気候変動適応推進係 技査 鈴木智裕
国立環境研究所気候変動適応センター気候変動適応戦略研究室 主席研究員 大場真
国立環境研究所福島支部 地域環境創生研究室 主任研究員 辻岳史

2019年度 こおりやま広域圏における研究会の立ち上げ

郡山市で適応を推進されるきっかけ、これまでの経緯をお聞かせください。

鈴木さん:2018年6月に気候変動適応法が公布され、地方自治体における地域気候変動適応計画の策定が努力義務となりました。これを受け、郡山市では同法において適応の情報基盤の中核として位置付けられている国立環境研究所(福島支部)に「郡山市」及び「こおりやま広域圏」を対象とした気候変動適応に係る取組の支援を依頼しました。その後、持続可能で気候変動に適応した地域の実現を目指し、2019年2月に郡山市と国立環境研究所との間で連携協定を締結しています。さらに同年5月には「こおりやま広域圏」における環境部門での連携事業として「こおりやま広域圏気候変動適応等推進研究会」を設置し、広域連携による適応策の推進を図っております。

羽田さん:郡山市及び近隣の15市町村は、将来にわたって豊かな地域として持続していくことを目指し、こおりやま広域連携中枢都市圏(こおりやま広域圏)を形成しております。研究会では、環境分野におけるさまざまな課題などについても共有し、その解決に向け、検討する場として位置付けております。地域の実情に沿った気候変動適応に関する施策などを検討するとともに、そのノウハウを蓄積するなど、適応計画の策定に向けて「皆さんで一緒に勉強しましょう」という趣旨です。

「こおりやま広域圏気候変動適応等推進研究会」では具体的にどのような取り組みを行いましたか。

鈴木さん:本研究会は広域的な連携を活かし、気候変動影響による被害を回避・軽減するための適応策等の推進を目的に設置されました。連携協定を結んだ国立環境研究所(福島支部)をアドバイザーとし、インパクトチェーン(※1)という手法を用いて、気候変動による影響の連鎖を可視化していく内容です。科学的知見の整理という点では、広域圏における現在及び将来の気候変動とその影響に関する観測・予測データを積極的に活用することを検討しました。

私自身、インパクトチェーンという手法を知ったのは2019年度の秋、東京でのワークショップに参加したことがきっかけです(※2)。一日の研修を終えて、「これはすごい」と衝撃を受けたことを覚えています。こうした手法を用いると、適応を自分事として捉えることができる。自分の地域では何が足りていないのか、影響の連鎖を可視化することで適応策をより具体的に検討することに繋がっていきました。それからすぐに広域圏でも実施したいと考え、福島支部の方々に相談をしながら取り組んできました。運営面ではさまざまな課題もありますが、今後こうした取り組みが全国に広がり、自治体職員にとって気候変動や適応を考える大きなきっかけになることを願っています。

※1
・インパクトチェーンに関するインタビュー記事(A-PLAT)
https://adaptation-platform.nies.go.jp/articles/case_study/vol19_hokkaido.html

※2
・2019年度のWS開催報告と開催案内チラシ
https://adaptation-platform.nies.go.jp/archive/report/20191121.html
https://adaptation-platform.nies.go.jp/pdf/event20191121_2.pdf

羽田さん:研究会では環境分野の担当職員の課題や要望を共有し、積極的に意見交換を行うことが重要です。適応計画の策定だけでなく庁内組織や部局間連携など、皆さんが聞きたいこと、知りたいことのニーズを把握し、しっかりと情報提供していくことが求められます。いずれは広域連携の枠組みを活かし、気候変動対策として協働できること、事業化なども具体的に検討していきたいと考えております。こうした連携の先に生まれる成果について、環境分野を担当される方々にメリットとして感じていただけたら嬉しいです。この枠組みや研究会があって良かった、出席してみたい、何かあったらここに戻ろうと思って頂ける「場」を提供したいと思います。

鈴木さん:こうした活動を通して、環境分野の担当職員等の適応への理解は確実に深まっていると実感しています。一方で、環境分野だけでは各分野における施策の実態を把握することが難しく、広域圏の各市町村の実情や要望に沿った内容にできたかどうかが課題として残りました。

2020年度 郡山市庁内組織におけるワーキンググループの実施

広域圏での取り組みを活かし、庁内横断的なワーキンググループでの取り組みをお聞かせください。

羽田さん:2019年度の研究会を通して、今後は全庁的に各担当部局まで適応の考え方を広める必要があると考え、2020年度から全庁横断的な取り組みとしてワーキンググループを立ち上げました。

鈴木さん:2020年7月から実施した「気候変動適応ワーキンググループ」では、「郡山市地球温暖化対策推進本部」における幹事会(課長級)の下部組織として位置付け、適応策の調査及び検討を行うこととしました。各課の課長補佐から係長級の職員で構成し、A~C班の3つのグループで構成(図1)しています。国立環境研究所福島支部地域環境創生研究室の方々を講師(ファシリテーター)に迎え、4回ほど開催(表1)。こうして洗い出された本市における脆弱性(弱点)を既存施策などと結びつけながら、各分野(水環境/自然生態系/自然災害/農林/産業・経済活動/健康/国民生活)における影響と適応策を(表2)を整理し、本市の地域気候変動適応計画を含む「郡山市気候変動対策総合戦略」の策定につなげております。

図1:構成員

表1:スケジュール・内容

表2:郡山市における影響評価・予測(庁内ワークショップで取りまとめた「情報整理シート」より)「郡山市気候変動対策総合戦略」p.22-24

現在の業務に携わるやりがい、今後の展望についてお聞かせください。

羽田さん:SDGsはじめ、気候変動適応という新たな分野でチャレンジをしていくことは非常にやりがいを感じています。本市はこおりやま広域圏における中心市として行動し、期待していただいている役割を果たすべきだと考えています。

鈴木さん:気候変動対策の推進は、地域の価値や魅力の向上につながるものであると考えております。地域にとってプラスとなるよう、本市の地域特性に応じた適応策を少しでも増やし、防災力の強化などに繋げていきたいです。また、環境分野だけでなく、各分野の担当者も同じ意識を持って地域課題に取り組んでいけるような仕組みづくりを目指したいです。

大場さん:地域気候変動適応センターというと、専門的な試験研究の実施やデータ分析・解析といった業務内容をイメージされる方も多いと思いますが、良い意味で、もっと気軽にライトウエートに検討をしていただけるようになったらと思います。例えば、法定計画として1ページだけでも適応を盛り込みたい、緩和がメインで適応を少しでも検討したいと考えていただけるようなパッケージを作成し、提供できればと思います。我々としても、より多くの自治体支援を行えるよう効率的な方法や体制を検討する必要がありますし、庁内連携・地域連携を促して地域活性化につながる成果を提供したいです。

辻さん:私も大場さんと同じ認識です。地域の気候変動対策では、効率的な体制を検討する必要があるため、環境政策における庁内連携・地域連携のあり方を考えるきっかけになると思っています。私は人と人のつながりを探求する社会学が専門ですので、こおりやま広域圏の各市町村担当者のご協力をいただき、適応に関わる行政・地域の方々の連携を支える基盤(条例・計画など)と、推進体制の調査をしました(※)。今後も地域の気候変動対策の仕組みづくりに関する研究を行っていきたいですし、そこに貢献しうるのは非常にやりがいがあります。

※出典:辻岳史, 戸川卓哉, 大場真 (2020) 中小規模市町村の気候変動対策に係る基盤と推進体制:こおりやま広域連携中枢都市圏を事例として. 環境情報科学学術研究論文集, 34, 234-239.

この記事は2020年11月26日の取材に基づいて書いています。
(2021年8月6日掲載)

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