Staff interview #43
バター アミットクマー(Batar Amit Kumar)

気候変動適応センター(CCCA) 気候変動影響観測研究室 特別研究員。インド出身。2022年6月国立環境研究所入所。

研究者を志した理由を教えてください。

学部生の頃、インドのデリー大学で行われたセミナーで地球温暖化や気候変動によるリスクやそのメカニズムについて学びました。 セミナーを通して、多くの国や小さな島々は、地球温暖化や気候変動による自然災害への対策が不十分であると知りました。 この現実に迫った問題に向き合うことのできる環境科学の研究に興味を持ち、研究者として貢献したいと思いました。

日本の大学に進学した理由を教えてください。

2014年から2017年にかけて北海道大学で環境科学を学びました。日本で研究することを選んだのは、日本が自然災害の起こりやすい国として知られていて、多くの研究者や科学者が災害関連の研究に注目しているからです。博士号を取得した後も北海道大学の研究員として研究を続け、国際長期生態学ネットワーク(ILTER)が主導する生態ネットワークイニシアティブへ積極的に貢献しました。また、グローバルパートナーシップにおける栄養管理(GPNM)が主導する地球栄養循環(GNC)計算ツールの開発に専門知識を提供しました。

国立環境研究所で働くことになった経緯を教えてください。

国環研には、私がこれまで関わってきた研究内容に近いプロジェクトがありました。空間的および時間的な生物多様性評価と気候変動への適応です。この重要なプロジェクトに貢献する機会に恵まれ、2022年6月に国環研に入所しました。

国立環境研究所での研究や取り組みについて詳しく教えてください。

現在は、日本の森林生態系に焦点を当てた二つの国家規模のプロジェクトに取り組んでいます。

一つ目は、異なる攪乱のパターンとダイナミクスが森林生態系に与える影響を理解し、関連するリスクを最小限に抑えることを目的としています。
二つ目は、樹木季節学の研究です。 地球観測データに基づくさまざまな植生指標を用いて、気候リスクが樹木季節学に及ぼす影響を調査し、日本が行うべき気候変動への対応を研究しています。この研究は、国環研の取り組みの中心である気候変動への適応と生物多様性保全の目標と密接に連携しています。また、これら二つのプロジェクトは持続可能な開発目標 (SDGs)、2020以降の生物多様性枠組、パリ協定などの地球規模の環境課題にも合致しています。

母国における気候変動への適応策を教えてください。

気候リスクを軽減し、適応するためにインドが国家規模で行っている良い事例を二つ紹介します。

一つ目は、樹木の植栽や農作物の栽培、家畜の飼育を同じ土地で行うアグロフォレストリーの実践です。 インドは 2014 年に、雇用や生産性、環境保全の促進を目的とした国家アグロフォレストリー政策 (NAP) を採用した最初の国となりました。 現在は、インドの薪炭需要のほぼ半分をアグロフォレストリーによる植栽が補っています。 この自然ベースで環境に優しいアプローチは、農家の経済的価値を高め、カーボンニュートラルな成長を促進し、気候リスクを軽減します。

二つ目は、「環境のためのライフスタイル運動」 (L.I.F.E) と呼ばれる大衆運動です。この取り組みは、2021年11月にグラスゴーで開催されたCOP26でナレンドラ・モディ首相によって導入されました。気候変動の対策において、環境問題を意識した生活を送ることを国民に推奨するもので、気候変動リスクを軽減することを目指しています。これらの活動を通して、インドは世界へ、意識的かつ計画的な資源の利用が不可欠であるとメッセージを送っています。

今後の展望を教えてください。

気候変動のリスクや生物多様性の損失など、環境問題はすでに世界中で顕在化していますが、そのための対策は十分ではありません。今後は、これまでの研究経験を現場で応用し、専門知識を世界中の地域社会と共有していきたいです。国連や JICA などの政策志向または政策実施型の研究機関に参加したいと思っています。

森林生態系の観点から、気候変動の適応に取り組んでいるAmitさん。国環研では、セミナーも積極的に開催し、研究内容を発信されています。ご家族もインドから活躍を応援されているそうです!Amitさん、ありがとうございました!
取材日:2023年10月17日

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