Staff interview #41
町村 輔(MACHIMURA Tasuku)

気候変動適応センター 研究調整主幹。千葉県出身。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士過程修了。大学・大学院では気候変動について研究し、2016年に環境省に入省。福島県の除染事業、自動車環境行政、水環境行政などに携わり、2022年4月から国立環境研究所に出向。

学生時代は気候変動について研究されていたそうですが、具体的にどのようなことに取り組まれていましたか?

日本に暑夏や冷夏をもたらす背景や、その長期的な変調、エルニーニョ現象やラニーニャ現象との関係を研究していました。エルニーニョ現象などの熱帯の大気海洋変動は、そもそも地球に内在する自然変動にあたります。この自然変動が、巡り巡って日本の夏にもたらす影響のことを遠隔影響と呼んでおり、それを対象に研究していました。

気候変動に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。

最初のきっかけは、小学校の総合学習の時間かもしれません。小3か小4のころに温暖化をテーマに調べものをして関心を持ちました。当時から外遊びが好きだったのですが、熱中症になったり、光化学スモッグ注意報が頻繁に発令されたりして、外遊びに影響することも。そういうところからも少しずつ温暖化や環境問題に意識が向き、なんとなく「将来は環境問題に関わる仕事をしたい」と思うようになりました。

大学院卒業後は環境省に入所されていますが、目指したきっかけはなんだったのでしょうか?

実社会に近いところで気象学や気候変動の知見を活かせるような仕事がしたいと思い、民間の会社への就職を視野に入れていましたが、ちょうど環境省が適応の重要性を唱えており、興味を持ったという流れです。

要するに、そこで適応の概念を知り、大切だと感じたということでしょうか?

そうです。まだ法律自体はできていませんでしたが、まさに気候変動の知見を使いながら影響に備える政策を展開しようとしていて、これに携わりたいと考えたのが目指したきっかけのひとつです。
さらに官庁訪問といって、職員の話を聞く機会もありました。当時は東日本大震災から4〜5年経ったころで、まだ避難指示が解除されていない地域も多く、その復興に向けて放射性物質対策に携わっている方の話を聞いたこともきっかけになりました。福島復興事業は「人に帰還してもらえるような環境を整え、町の機能を取り戻す」というミッションのもと取り組んでいること、そして、その最前線で対応されていた職員の熱意にも魅了されました。分野の幅も広く、スケールも多様なところに魅力を感じたのを覚えています。

2016年に入省されて、どのようなお仕事を担当しましたか?

最初の2年は福島県の復興の仕事をしていました。私が担当していたのは福島のなかでも、避難指示が出ている地域。避難して人がいないため行政機能が十分ではなく、国が直轄で除染作業を行う必要があったエリアです。2017年3月の避難指示解除などに向けて、除染を推進する事業に携わっていました。

その後、2年ほど国土交通省自動車局に出向したあと、環境省に戻って担当したのが水環境行政です。工場や事業所からの排水の水質規制を担当しました。規制の現場は地域ですので、自治体の方々とやり取りすることも非常に多かったです。

そして2022年の春から、国環研の気候変動適応センターに出向されています。現在のお仕事内容について教えてください。

気候変動適応センターは、研究と支援を一体的に行って適応を推進する役割があり、私は主に自治体の支援を行うチームと、センター内の企画の横連携を取るために今年度新たにできた企画支援チームを担当しています。

自治体支援については、気候変動適応法のなかで努力義務とされている地域計画の策定と適応センターの設置について、支援や技術的な助言をおこなっています。私が主に担当しているのは研修関係です。自治体職員の方々が2年程度で異動することを踏まえた研修や、計画策定に関する研修もおこなっています。また個別テーマのセミナーも企画しており、今年は現地でのワークショップも計画中です。そういった機会も通じて、いま何が求められているかなども把握できればと考えています。

地域ごとに事情や特性が異なるかと思いますが、業務を進めるうえで難しいと感じることはありますか。

地域センターの設置方法に定めがないので、自治体のなかに設置しているケースもあれば、研究機関と一緒になって設置していたり、NPOが地域センターの役割を担っていたりと、さまざまです。取り組み内容も地域ごとにユニークである一方、課題が多様化しています。我々のなかで、中長期的な視点も持ったうえでどこにフォーカスして支援すべきかについて、最近よく議論しています。

お仕事のやりがいを、どのようなところに感じていますか。

適応の認知度はまだまだ低いですが、法施行以降、自治体・事業者含め、社会的な関心がかなり高まっている印象があります。そのような状況のなか、適応の情報基盤の中核を担っている国環研で仕事ができることは、自分が希望していたことでもあり、大きなやりがいにつながっています。

またここに配属される前に、適応センターのホームページで見ていた研究者の話を、日常的に聞けるのはとても贅沢なことです。私は気象や理学の研究しかしてこなかったので、それが影響の分野でどう活かされているかという知識はありませんでした。農作物や生態系など、どのお話も新鮮です。さらに、行政計画自体を研究対象にする方もおり、ユニークで勉強になります。
こうした多様な専門を持った研究者と一緒になって、地域支援という行政的な内容を含む仕事に取り組めることは大変心強く感じています。

地球環境や人々の気の持ちようなどについて、町村さん自身がこうなっていったらいいなと思われるような希望的観測はありますか。

環境問題の対策は全般に、「格差を是正する」ことにあると思っています。排水規制を例に挙げると、たとえば上流の人は自らが流した排水の影響を受けませんが、下流にいる人は影響を受けます。上下間で格差があるからこそ、排水規制が定められているのです。そういった格差を埋めていくものが、環境対策だと思います。

気候変動対策は、先進国と途上国の格差などを埋めるものでもあると思います。特に気になるのが世代間格差です。環境が変化していくいま、将来にしわ寄せがいかないように、いま生きている私たちが対策をするべきだと思います。まずはそういう差があると認識したうえで、多くの人が「だから取り組まなければ」という気持ちを持てるといいですね。

適応については、「気候変動をうまく活用しよう」という考え方もあります。そういった視点はこれまで持っていませんでしたが、最近は将来の町づくりを考えるうえで、大事なことのひとつだと考えるようになりました。気候変動の予測は将来の情報を与えてくれます。物事を考える時の視点が将来に向きます。適応を考えることが、将来の町づくりを考えるひとつのきっかけになったらいいなと思います。

今後の目標を教えてください。

今年に入ってから、企画支援チームの職員と一緒に所内の研究者に話を伺うという企画をおこなっており、緩和の研究をされている研究者から話を聞くこともあります。緩和は明確な数値目標もありますが、「脱炭素社会とはこういう未来像だ」という暮らしのイメージを打ち出したうえで対策に繋げている印象があります。適応はまだ全体的にはそこに至っていません。

影響に対して対策を立てるというより、目指すものが先にあってそれに対する影響を考え、対策を立てるというように、町づくりの一環という形で適応計画や取り組みが広がっていったらいいなと思っています。そういった視点を、研修や情報発信などにうまく取り入れていきたいです。

環境省でも野球部に所属している町村さんは、国環研異動後、初日から野球部に加入。「グラウンドで毎日練習できるチャンスはなかなかない」と、できる限り練習に参加するようにしているそうです。また、ご家族でキャンプに行くのも好きなのだとか。もともと自然のなかで遊ぶのが好きな町村さん、お子さんとリフレッシュしながら、一緒に環境について考えるきっかけにもなっているかもしれません。町村さん、ありがとうございました!
取材日:2023年5月29日

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