地域適応計画策定時の負担軽減ポイント
~市区町村を対象に~

地域の担当者用このページは主に官公庁・自治体職員や研究者向けの情報です。

令和5年6月 国立環境研究所 気候変動適応センター

目次

計画策定マニュアル「【STEP1】地域適応計画策定/変更に向けた準備」関連
  1. 地域適応計画の形式((1)自治体規模別・ (2)地域別)
  2. 複数の自治体の連携による計画策定事例
  3. 将来気象等の予測((1)要素別採用割合(①全体・②地方別)、(2)予測方法、(3)引用されているデータ)
計画策定マニュアル「【STEP2】これまでの気候変動影響の整理」関連
  1. これまでの気候変動影響の収集・整理方法
計画策定マニュアル「【STEP3】将来の気候変動影響の整理」関連
  1. 将来の気候変動影響の整理(想定される影響情報の収集・整理)
計画策定マニュアル「【STEP4】影響評価の実施」関連
  1. 影響評価の実施方法
計画策定マニュアル「【STEP5】既存施策の気候変動影響への対応力の整理
⇒なし
計画策定マニュアル「【STEP6】適応策の検討」関連
  1. 優先度の高い分野の特定(各自治体の対応分野)
計画策定マニュアル「【STEP7】適応策の取りまとめと地域適応計画の策定」関連
  1. 新たな形式の計画のまとめ方の事例
計画策定マニュアル「【STEP8】地域適応計画の進捗状況の確認」関連
  1. 指標の設定((1)設定している自治体の割合(①全体・②年別)、 (2)実際に設定された指標)
本資料内では以下のように計画の略称を使用する
  • 地域気候変動適応計画策定マニュアル(手順編)⇒「計画策定マニュアル」
  • 地域気候変動適応計画 ⇒「地域適応計画」
  • 地方公共団体実行計画(区域施策編) ⇒「実行計画」

調査の概要

目的

  • 令和4年12月時点で46の都道府県及び145の市区町村において地域気候変動適応計画が策定されています。
  • 本資料は、主に市区町村が計画を策定する際の負担軽減ポイントを明らかする目的で作成したものです。
  • 市区町村がどのように計画策定に取り組まれたかを把握する一助としてご活用ください。

調査内容・方法

  • 主に市区町村の地域気候変動適応計画を対象に、その策定形式、将来気象や将来の気候変動影響の予測手法、指標の設定状況等について調査・分析を行い、「地域気候変動適応計画策定マニュアル」のSTEPに沿って負担軽減につながると思われるポイントを抽出・整理しました。

調査対象

  • 令和4年12月末時点でA-PLATに掲載されている地域気候変動適応計画191件(都道府県46件、市区町村145件)を対象にしました。

調査期間

  • 令和4年11月~令和5年3月

その他

  • 本資料と共に、環境省が作成した「地域気候変動適応計画策定マニュアル」、関東広域協議会地域適応策検討分科会作成の「自治体担当者向けの地域気候変動適応計画策定に向けた課題・ノウハウ集」もご参照ください。

各項目の構成

各項目の構成
マニュアル「【STEP1】地域適応計画策定/変更に向けた準備」関連

1.地域適応計画の形式

(1)自治体規模別

地域適応計画の形式として、独立した計画として策定しているのか、実行計画や環境基本計画等の一部に組み込んでいるのかを、自治体規模別にグラフ化するものです。

図1.地域適応計画の自治体規模別策定形態別割合
図1.地域適応計画の自治体規模別策定形態別割合
分析
  • 全体では、「実行計画の一部」の割合が過半数を超えている一方、単独で策定している割合は4%程度とごく限られている。
  • 自治体規模別では、政令指定都市→中核市→その他と自治体規模が小さくなるほど、「実行計画の一部」の割合が減少し、「環境基本計画の一部」が増加
  • これは、政令指定都市であれば、地球温暖化や生物多様性、廃棄物等の所管が別々の課である場合が多いが、小規模な自治体では、一つの課があらゆる環境問題を所管している場合が多く、環境基本計画の策定も、一つの課で完結するため、地域適応計画を環境基本計画の一部とする割合が高いものと考えられる。
負荷軽減のポイント

各市区町村の実情を踏まえ、実行計画や環境基本計画の策定・改定に合わせて、その一部として地域適応計画の策定を検討することで、審議会やパブリックコメント等の労力を削減できます。

(2)地域別

地域適応計画の形式として、独立した計画として策定しているのか、実行計画や環境基本計画等の一部に組み込んでいるのかを、地域別にグラフ化するものです。

図2.地域適応計画の地域別策定形態別割合(都道府県除く)
図2.地域適応計画の地域別策定形態別割合(都道府県除く)
分析
  • 地域別に見ると、中部地方以東では、「環境基本計画の一部」の割合が高く、一部、「単独計画」の事例もある一方で、近畿以西では、「実行計画の一部」の割合が高く、「単独計画」の事例はない
  • これは、西日本では、各地域の計画策定件数が東日本に比べて少なく、一つの要因として、特に小規模な自治体における地域適応計画の策定が進んでいないことから、「環境基本計画の一部」の割合が相対的に低くなったものと考えられる。
  • 上記の可能性も踏まえ、地域適応計画の形式について、必ずしも地域性が認められるとは断言できない。
+info

計画策定マニュアルでは、地域適応計画の形式について、そのパターンや実行計画と合わせて策定する場合の構成例などがまとめられています。併せて、計画の策定スケジュールの事例等も紹介されています。

マニュアル「【STEP1】地域適応計画策定/変更に向けた準備」関連

2.複数の自治体の連携による計画策定事例

現時点において、法定計画として地域適応計画を複数自治体で連携して策定した事例はないが、適応策に関連した計画や指針等を連携して策定した事例がいくつか存在します。

こおりやま気候変動適応策指針

●策定年月:平成31年2月

●連携自治体:16市町村
郡山市、須賀川市、田村市、本宮市、大玉村、鏡石町、天栄村、猪苗代町、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、小野町、三春町、二本松市

●概要
 令和元年5月に、こおりやま広域圏における広域的な連携により気候変動適応策を推進することを目的に「こおりやま広域圏気候変動適応等推進研究会」を設置。国立環境研究所福島支部地域環境創生研究室の支援を受けつつ、合計8回の研究会を開催し、こおりやま広域圏での適応策の方向性を示すものとして策定。
 こおりやま広域圏におけるこれまでの気候変動の影響や将来の気候変動の影響等を踏まえて重大性等を評価している。

https://www.city.koriyama.lg.jp/soshiki/54/2474.html

熊本連携中枢都市圏地球温暖化対策実行計画

●策定年月:令和3年3月

●連携自治体:18市町村
熊本市、菊池市、宇土市、宇城市、阿蘇市、合志市、美里町、玉東町、大津町、菊陽町、高森町、西原村、南阿蘇村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、山都町

●概要
 気候危機がもたらす脅威に対し、住民・事業者・行政が一丸となった取組を進める決意を示すため、連携中枢都市圏で気候非常事態宣言を発出。宣言の実行のための具体的な計画として策定。
 計画の第6章に適応策の考え方、気候変動による地球温暖化の影響と適応策について記載。
 計画の推進に当たっては、18市町村で庁内調整後、「連携中枢都市圏温暖化対策実行計画連絡会議」での全体協議を経て、外部委員で構成される「意見聴取委員会」へ報告、ここでの助言等を踏まえ、市民・事業者等との連携を図りながら取組を推進する。

※地域気候変動適応計画としての位置づけは明記されていない。

https://www.city.kumamoto.jp/kankyo/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=45844&class_set_id=3&class_id=587

マニュアル「【STEP1】地域適応計画策定/変更に向けた準備」関連

3.将来気象等の予測

(1)要素別採用割合一①自治体規模別

地域適応計画において、気象に関する項目として取り上げられているもの、つまり、着目されている気象要素について、自治体規模別にグラフ化するものです。

なお、本項目においては、過去及び将来の気象に関して取り上げられている要素をグラフ化しています。

また、過去及び将来の気象について全く記載のないものも含めた割合として算出しているので、特に小規模な自治体では全体的に割合が低くなっています。

図3.将来気象等の要素別採用割合
図3.将来気象等の要素別採用割合
分析
  • 自治体規模を問わず、気温、猛暑日・冬日等・降水(降雪)の3要素が取り上げられている割合が高い
  • 別項目で取りまとめた、施策の対象とする分野においても、「自然災害・沿岸域」と「健康」を対象とする自治体が多いことから、これらの分野と直接関連する、気温や猛暑日・冬日等、降水に関する気象要素に着目されているものと考えられる。
  • また、それ以外の項目は、自治体規模が大きくなるほと取り上げられる割合が高くなっている。これは、検討に割ける労力等が関連しているものと考えられる。
+info

A-PLATでは、「これまでの気温・降水量の変化」のグラフ画像を提供しています。

(1)要素別採用割合-②地方別

地域適応計画において、気象に関する項目として取り上げられているもの、つまり、その自治体において着目している気象要素について、地域別にグラフ化するものです。

なお、本項目においては、過去及び将来の気象に関して取り上げられている要素をグラフ化しています。

また、過去及び将来の気象について全く記載のないものも含めた割合として算出しているので、特に小規模な自治体では全体的に割合が低くなっています。

図4.将来気象等の要素別採用割合(地方別)
図4.将来気象等の要素別採用割合(地方別)
分析
  • 地域を問わず、気温、猛暑日・冬日等・降水(降雪)の3要素が取り上げられている割合が高い。
  • 地域別で特徴的なのは、「その他」の項目であり、北海道や東北では「積雪」が、九州・沖縄では、「海面水位」や「海面水温」など、海に関連する要素が取り上げられている割合が高い。
  • これは、地域の気候・気象の特徴を踏まえた要素選択であると同時に、地域適応計画策定の際に、近隣自治体の地域適応計画を参考にしている可能性も考えられる。

(2)予測方法

地域適応計画において、将来気象の予測の方法について、手法別・自治体規模別にグラフ化するものです。

図5.将来気象の予測方法別割合
図5.将来気象の予測方法別割合
分析
  • 自治体規模を問わず、気象庁(地方気象台)が公表しているデータや、提供されたデータを活用して将来気象の予測の項目を記載している
  • 一方、独自で将来気象の予測等の調査を行っている事例は極めて少ない。
  • また、自治体規模別では、中核市や小規模な自治体では、気象庁関連のデータを活用する割合が低くなっているが、これは、そもそも将来気象の予測に関する項目を地域適応計画に記載していないものが多いためである。
負荷軽減のポイント

気温・猛暑日等・降水量は、多くの自治体が採用しているため、新たに策定する自治体は、所在する都道府県や気候条件が同様の近隣自治体の計画を参考にすることで、引用資料等も記載されていることから、これらの資料の調査等を行う負担を軽減できます。

+info

将来の気候・気象は、今後の温室効果ガスの排出量によっても変わります。将来の気候・気象の予測に活用される排出量等の前提条件については、計画策定マニュアルにまとめられています。

(3)引用されているデータ

地域適応計画において、将来気象等の予測に関し、引用資料を集計することで、活用頻度の高い資料を明らかにするものです。

ただし、出典が明記されているもののみを集計しているため、実際は、より多くの資料が活用されているものと考えられます。

表1.将来気象の予測に活用された資料(上位5件)(都道府県除く)
資料名 引用件数
1. 気象庁:○○県の21世紀末の気候 28件
2. 気象庁:地球温暖化予測情報(7巻・8巻・9巻) 15件
3. ○○地方の地球温暖化予測情報 10件
4. 気候変化レポート-○○地方- 9件
5. ○○地方の気候変動2017 4件

※出典が明記されているもののみの集計

分析
  • 「(2)予測方法」の項目において、各地域適応計画においては、気象庁(地方気象台)のデータ・資料の活用が多いことが明らかになったが、具体的に活用された資料としては、右表のとおり、「〇〇県の21世紀末の気候」の頻度が最も高かった。この資料は、各都道府県ごとの電子データが公表されており、記載された図表やデータを引用することで、容易に「将来気象等の予測」の項目を完成させることができるため、引用頻度が高かったものと考えられる。
  • その他についても、地方別に将来気象等の予測が掲載されている資料の活用頻度が高い。
負荷軽減のポイント

将来気象等の予測については、自治体独自で行うには労力が過大であるため、気象庁等において、都道府県別等で分かりやすく取りまとめた資料が複数公開されているので、これらの資料を参照することで、負担を軽減できます。

+info

A-PLATでは、将来予測のWebGIS(オンライン地理I青報システム)や将来予測画像データなどの「気候変動の観測・予測データ」を提供しています。

マニュアル「【STEP2】これまでの気候変動影響の整理」関連

4.これまでの気候変動影響の収集・整理方法

地域適応計画において、これまでの気候変動影響の収集・整理に活用された資料に関して、引用資料を集計することで、活用頻度の高い資料を明らかにするものです。

ただし、出典が明記されているもののみを集計しているため、実際には、より多くの資料が活用されているものと考えられます。

また、各自治体が独自に保有している情報については、基本的には出典が明記されていないことから、この集計の対象外となり、この項目で示す情報については、庁外の資料の活用状況を示す情報という位置づけになります。

表2.これまでの気候変動影響の収集・整理に活用された資料(上位5件)(都道府県除く)
資料名 引用件数
1. 都道府県の地域適応計画/影響評価資料 13件
2. 熱中症搬送者数に関する資料(総務省消防庁資料/市・広域消防本部資料) 13件
3. 国の適応計画/影響評価報告書 10件
4. 市民・事業者アンケート(具体的な影響ではなく実感等を聞くものが多い) 10件
5. 研究機関・研究者の公表資料 9件

※出典が明記されているもののみの集計

分析
  • これまでの気候変動影響の収集・整理に活用された資料としては、都道府県の地域適応計画や都道府県がまとめている影響評価に関する資料の活用件数が最も高かった。また、同数で上位に挙がったものが、熱中症に関する資料で、適応策を講じる分野としても「健康」を対象とする割合は高く、進捗管理指標としても頻繁に採用されていることから、関連資料の引用件数も多くなっているものと考えられる。
  • また、具体的な影響の引用ではないが、計画策定に関連して市民や事業者へのアンケートを行う事例も複数あり、影響の実感を聞く設問を設定し、情報収集を行う場合も複数見受けられた。
負荷軽減のポイント

ほぼ全ての都道府県が地域適応計画を策定済みであり、各市区町村はその対象範囲に入っていることから、まずは、都道府県計画を参照し、各市区町村に関連する影響を抽出し、不足情報は、国の適応計画や研究機関の公表資料等で補足することで負担を軽減できます

+info

計画策定マニュアルでは、これまでの気候変動影響の整理方法や例がまとめられています。ほかにも、庁内関係部局から情報を収集する際の「庁内コミュニケーションシート」も準備されています。

また、A-PLATでは、「気候変動影響観測・影響予測の研究事例」や、「アンケート調査実施時の参考資料」なども提供しています。

マニュアル「【STEP3】将来の気候変動影響の整理」関連

5.将来の気候変動影響の整理(想定される影響情報の収集・整理)

地域適応計画において、将来の気候変動影響の収集・整理、あるいは想定される影響情報の収集・整理に活用された資料に関し、引用資料を集計することで、活用頻度の高い資料を明らかにするものです。

ただし、出典が明記されているもののみを集計しているため、実際は、より多くの資料が活用されているものと考えられます。

なお、ひとつの地域適応計画の中で、国の適応計画と影響評価報告書の両方を活用している例もあるが、この場合は1件としてカウントしています。

表3.将来の気候変動影響の整理に活用された資料(上位5件)(都道府県除く)
資料名 引用件数
1. 国の適応計画/影響評価報告書 34件
2. 都道府県の地域適応計画 23件
3. A-PLAT 18件
4. 研究機関や研究者等の研究論文や公表資料 9件
5. S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究の成果 6件

※出典が明記されているもののみの集計

分析
  • 将来の気候変動影響の収集・整理に活用された資料としては、国の適応計画・影響評価報告書、都道府県の地域適応計画、A-PLAT、この3件が多く、これらが基本の情報源として機能していることが伺える。
  • こうした状況から、これら3件の情報源から必要な情報を収集し、不足する情報を、研究機関の発表資料や研究論文等から収集するという流れが、各自治体における検討の基本的なステップとなっているものと考えられる。
負荷軽減のポイント

国の適応計画や影響評価報告書、都道府県の適応計画、A-PLATから各自治体に関連する情報など、必要な情報を引用することで負担が軽減できます。

+info

計画策定マニュアルでは、将来の気候変動影響の整理に関し、国や都道府県の地域適応計画等の活用だけでなく、大学や研究機関の研究論文等を収集する方法も含めて事例や参考資料を紹介しています。

また、将来の影響を計画こ盛り込む際のひな形も掲載されています。

また、A-PLATでは、「気候変動影響評価報告書の引用文献」の一覧も提供しています。

マニュアル「【STEP4】影響評価の実施」関連

6.影響評価の実施方法

地域適応計画において、気候変動の影響評価を行う際に、どういった手法を採用したか(どういった資料を参照し影響評価を実施したか)について、グラフ化するものです。

図6.影響評価の手法別採用件数(都道府県除く)
図6.影響評価の手法別採用件数(都道府県除く)

※手法が明記されているもののみの集計

分析
  • 影響評価の手法としては、明記されているものだけでも、60件以上が国の計画等、つまり、国の適応計画や気候変動影響評価報告書等を参照し、その中で実施されている影響評価の手法を各自治体に当てはめて実施している事例であった。
  • また、次点としては、都道府県の計画等の参照となるが、都道府県計画においても、国の計画等の手法を準用している例が多いので、実質的には、大多数が国の計画等の手法を採用していることになる。
  • その他、市民・事業者へのアンケートにより、危機意識が高い分野や自治体への要望を聞いている事例も見られた。
負荷軽減のポイント

国の適応計画に記載された影響評価手法を準用し、各自治体に当てはめて影響評価を行うことで、負担を軽減できます。

+info

国や都道府県の計画を活用した影響評価は、最も簡便な手法ですが、計画策定マニュアルでは、庁内の関係部局や専門家を交えた評価手法などもまとめられています。

マニュアル「【STEP6】適応策の検討」関連

7.優先度の高い分野の特定(各自治体の対応分野)

国の適応計画に示された7分野を基本とし、各自治体の地域適応計画がどの分野に対応しているかを集計し、表に示すものです。

表4.自治体規模別対応分野(計画への記載割合)
農業・林業・水産業 水環境・水資源 自然生態系 自然災害・沿岸域 健康 産業・経済活動 国民生活・都市生活
全体
(都道府県を除く)
69.9% 56.2% 61.0% 92.5% 95.9% 36.3% 55.5%
政令指定都市 88.9% 77.8% 94.4% 100% 100% 50.0% 83.3%
特別区 8.3% 41.7% 16.7% 75.0% 100% 33.3% 66.7%
中核市 74.2% 58.1% 67.7% 90.3% 96.8% 41.9% 64.5%
その他 72.9% 52.9% 57.6% 94.1% 94.1% 31.8% 44.7%
(参考)都道府県 97.8% 91.3% 95.7% 95.7% 95.7% 76.1% 78.3%

※朱色の網掛けが上位2分野、青い網掛けが下位2分野

分析
  • 各地域適応計画における対応分野を集計した結果、いずれの自治体規模においても、「自然災害・沿岸域」「健康」の2分野を対象とする割合が高かった。これは、災害や熱中症など、この2分野に関連する影響が、市民の生活や企業等の事業活動に直結することから、自治体における優先度が高いためであると考えられる
  • 一方で、「産業・経済活動」はいずれの自治体規模でも、また、政令指定都市では「水環境・水資源」が、小規模な自治体では「国民生活・都市生活」を対象とする割合が低かった。「産業・経済活動」については、「大項目」で見ても、観光業とエネルギーに関連する施策以外が少ないことからも、どのような施策が適応策に該当するか特定が難しいことが根底にあると考えられる。また、「水環境・水資源」「国民生活・都市生活」については、ダムや大規模河川、道路などの関連するインフラを所管していないことなども対象とされていない理由と考えられる。
  • また、特に小規模な自治体においては、適応策に投入するリソースが豊富にあるわけではないので、優先順位が上位の分野に選択と集中を行うために、その他の分野を対象にしていないということも考えられる。
負荷軽減のポイント

ほぼ全ての都道府県が地域適応計画を策定済みであり、各市区町村はその対象範囲に入っていることから、各市区町村においては、都道府県計画でさらなる深堀りが考えられるまたはより地域性の高い分野や対象を特定し、重点的に対策を行うという手法も取り得ます。

+info

掲載する適応策は、既存施策や新規・追加施策などが考えられますが、計画策定マニュアルでは、新規・追加施策も含めた適応策の優先付けなどの方法がまとめられています。

また、A-PLATでは、「国内外の適応策事例集」や「関係省庁の適応に関する取組」を取りまとめた情報を提供しています。

分野の特定の参考事例
-八尾市地球温暖化対策実行計画(区域施策編・チャレンジやお)-

八尾市の地域特性を鑑み、5つの基本施策を中軸として適応策を推進していくとされており、その中でも、「自然環境」と「農業」については、対象を絞った記載がなされている。

<概要>
●自然環境:希少種のニッポンバラタナゴ

水田やため池における酸素の欠乏やプランクトンの成長が低下し、ニッポンバラタナゴ等の生息する淡水生態系の環境悪化が懸念される。

  • 農地やため池等が持つ生物多様性の保全や、適応への理解促進に努める。
  • 種の保存や多様性の保全のため、生態系ネットワークの確保をめざして、農地やため池、里山等の保全・整備を進める。
●農業:特産物の若ごぼう等の農産物等

農業生産は、一般に気候変動の影響を受けやすく、各品目で生育障害や品質低下等、気候変動によると考えられる影響が見られる。

  • 農業に与える影響や、高温障害、低温障害を回避する栽培方法、高温に強い品種等の情報収集、農家等への情報提供を行う。
  • 自然災害時の補償による経営安定化を図るため、各種共済・保険制度の周知を行う。
  • 八尾市地球温暖化対策実行計画(区域施策編・チャレンジやお)
    https://www.city.yao.osaka.jp/0000056334.html
分析
  • 対応分野の選択においては、上記の「分野の特定の参考事例(八尾市)」のように、その自治体の特徴にフォーカスした分野や小項目を選択する事例もある。
  • ほぼ全ての都道府県が地域適応計画を策定済みであり、市区町村は、いずれかの都道府県内に所在していることから、都道府県の適応策の影響下にあると言える。こうした面から見ても、特に小規模な自治体については、まずは、各自治体の特徴にフォーカスすることから検討を始めるのがよいものと考えられる。
マニュアル「【STEP7】適応策の取りまとめと地域適応計画の策定」関連

8.新たな形式の計画のまとめ方の事例

必要項目を整理し、計画としてまとめる際には、多くの文章を記載する必要があり、かなりの労力を要します。

ここでは、一般的な文章でまとめた計画ではないまとめ方の事例を示します。

那須塩原市気候変動対策計画 ⇒ 計画本冊をスライド形式で取りまとめ

那須塩原市気候変動対策計画(地方公共団体地域実行計画(区域施策編) 兼地域適応計画)は、一般的な文章でまとめた計画ではなく、スライド形式で1ページに記載する情報量を絞りポイントとなる事項のみをまとめ、イラストなども活用しつつ市民への分かりやすさに配慮した形式で計画がまとめられている

記載する文章の量やページ数も大幅に削減されることから、計画の取りまとめに要する労力も削減されるものと考えられる。

マニュアル「【STEP8】地域適応計画の進捗状況の確認」関連

9.指標の設定

(1)設定している自治体の割合一①全体

取組の進捗状況を測る指標や、適応策の推進に係る個別の目標を掲けている地域適応計画の割合を、自治体規模別にグラフ化するものです。

進捗状況を測る指標や個別の目標は、基本的には目標数値が示された定量的なものですが、一部、定性的な目標や、目標数値の設定のない状況を示すための指標も混在しています。

図7.指標を設定している自治体の割合
図7.指標を設定している自治体の割合
分析
  • 自治体規模別の指標の設定割合は大きな差は見られず、どの自治体規模においても、20%前後の計画で指標が設定されている。
  • 一方で、都道府県では、指標の設定割合は、10%を下回っている。これは、都道府県では、市区町村に比べて比較的早い段階で地域適応計画の策定がなされ、指標の設定に関するノウハウが蓄積されていなかったことが一つの要因として考えられる。
負荷軽減のポイント

各自治体での地域適応計画の策定が進み、指標の事例も多く存在することから、まずは他都市の事例を参照することで、指標の設定を検討する負担を軽減できます。

(1)設定している自治体の割合一②年別

取組の進捗状況を測る指標や、適応策の推進に係る個別の目標を掲けている地域適応計画の割合を、地域適応計画の策定年別にその推移をグラフ化するものです。

進捗状況を測る指標や個別の目標は、基本的には目標数値が示された定量的なものであるが、一部、定性的な目標や、目標数値の設定のない状況を示すための指標も混在しています。

図8.策定年別の定量指標が設定されている計画割合
図8.策定年別の定量指標が設定されている計画割合
分析
  • 地域適応計画の策定年別の指標の設定割合を見ると、2019年頃まで15~20%程度で横ばいであったものが、2020年以降では40%前後と、大幅に上昇している。
  • これは、それまでに策定された地域適応計画における指標の設定に関する実績が蓄積してきたことや、2021年に閣議決定された国の適応計画において、KPIの設定に言及されたことなどが影響しているものと考えられる。
  • これらのことから、地域適応計画において、指標を設定することは標準化する方向へ向かうのではないかと考えられる。

(2)実際に設定された指標

地域適応計画において掲げられた、取組の進捗状況を測る指標や、適応策の推進に係る個別の目標について、一覧に示すものです。

詳細は別紙資料「地域気候変動適応計画に掲載されている指標一覧」を参照してください。

表5.市区町村の地域適応計画で設定された指標(主なもの)
  • 気候変動適応策の認知度や市民の取り組み度合い
  • 市民への情報提供・普及啓発の回数
  • 環境保全型農業直接支払制度(交付金)等の対象面積
  • 自主防災組織の数
  • 雨水流出抑制量
  • 熱中症搬送者数
  • 熱中症に関する普及啓発
  • 緑化の推進
分析
  • A-PLATに別途掲載の「地域気候変動適応計画に掲載されている指標一覧」では、都道府県、市区町村の別に350件の指標を一覧化している。
  • 都道府県では、各分野において、大きな偏りなく指標が設定されているのに対し、市区町村では、右表のような指標の件数が多かった。
  • これは、都道府県と市区町村では、実施可能な事業規模や所管する分野の広さの違いがあり、また、適応策に割ける人員や労力も少ないことから、対象とする分野も絞り込まれている例が多く、そのために、関連する適応策や指標も類似のものに収敗しているものと考えられる。
  • また、市区町村では、都道府県に比べて市民に近い存在であることから、市民の認知度や取り組み度合い、市民の命に直結する自然災害や健康に関する分野に関する指標として「自主防災組織の数」(自主防災組織である消防団の所管は市区町村)や「熱中症搬送者数」の件数が多くなっている。
  • さらに、指標を設定すると、その進捗を管理する必要があるが、市区町村では市民アンケート等を行っている事例が多く、市民の認知度等については、その際に確認が可能であることから設定件数も伸びているのではないかと考えられる。
+info

計画策定マニュアルでは、指標の設定だけでなく、各適応策の個票の整理をはじめ、進捗状況の確認方法について取りまとめられています。

地域気候変動適応計画策定・改定の参考事例

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