地域気候変動適応計画改定に関する参考事例
~アンケート調査結果を中心に~

地域の担当者用このページは主に官公庁・自治体職員や研究者向けの情報です。

令和5年6月 国立環境研究所 気候変動適応センター

目次

本資料内では以下のように計画の略称を使用する
  • 地域気候変動適応計画 ⇒「地域適応計画」
  • 地方公共団体実行計画(区域施策編)⇒「実行計画」

調査の概要

目的

  • 令和4年8月現在、18の地方公共団体において地域気候変動適応計画の改定が行われています。
  • 本資料は、地方公共団体が地域適応計画を改定する際の参考情報を提供する目的で作成したものです。
  • 地方公共団体がどのように改定に取り組まれたかを把握する一助としてご活用ください

調査内容

  • 計画の分析、アンケート調査等を通じて、改定のきっかけ、改定の際に参考にした情報、対象の分野数・項目の変遷、優先度・重点分野の設定の変遷、進捗管理指標の設定の変遷などを整理しました。

調査方法

  • 改定を行った18自治体の新旧計画について、対象分野数・項目数、指標の設定等の情報を調査しました。
  • うち14自治体については、アンケートにより改定のきっかけや改定の際に参考にした情報を収集しました。
  • さらに、そのうち5自治体については、電話にてヒアリングを行い、追加情報を収集しました。

調査対象

  • 都道府県:岩手県、秋田県、石川県、愛知県、大阪府、兵庫県、徳島県、高知県、福岡県、長崎県、宮崎県
  • 市町村:仙台市、那須塩原市、川崎市、相模原市、横須賀市、北九州市、福岡市

調査期間

  • 令和4年11月~令和5年3月

各項目の構成

各項目の構成

1.地域適応計画改定のきっかけ

この項目について

地域適応計画の改定のきっかけとしては、様々な要因が考えられます。

この項目では、計画改定のきっかけについて、改定を行った7都道府県と7市町村ヘアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式でアンケートを行ったため、各項目について、それぞれ100%が最大となります。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図1.地域適応計画の改定のきっかけ
図1.地域適応計画の改定のきっかけ
結果と分析
  • きっかけとして最多は、「実行計画の改定があったため」で、次点は、「旧計画の期間が満了したため」であった。
  • 新旧計画で、形式の変更(単独計画から実行計画の一部へ変更、など)は限られており、もともと実行計画の一部として策定している例が多い(「2.地域適応計画策定形式の新旧変化」の項目参照)ことから、旧計画を実行計画の一部としていた中で、実行計画の年限を迎え、計画改定が必要になったものと考えられる
  • その他、国の適応計画が発行されたことや、市町村では、「ゼロカーボンシティ宣言を行った」ことなどがきっかけとなったと回答されている
  • 自治体へのヒアリングでは、市長トップダウンでのゼロカーボンシティ宣言により、関係部局の連携が進んだところもあった

地域適応計画の期間が満了した際には、国の動向や庁内の動き等を踏まえて改定内容を検討することが望ましい

2.地域適応計画の形式の新旧変化

この項目について

地域適応計画の改定に当たり、計画の形式(単独計画、実行計画の一部、など)について、旧計画の形式を踏襲する場合と、取組の進展等を勘案し、形式を変更する場合が考えられます。この項目では、計画の形式の新旧変化について、18自治体の改定計画について調査を行った結果を示します。

18自治体の改定計画の調査結果
表1.地域適応計画の策定形式の新旧変化
策定形式(旧→新) 全体 都道府県 市町村
変化あり 単独計画 → 実行計画の一部 2件 0件 2件
変化なし 単独計画 → 同 1件 1件 0件
実行計画の一部 → 同 13件 8件 5件
環境基本計画の一部 → 同 2件 2件 0件
結果と分析
  • 新旧変化を見ると、18事例のうち16事例で旧計画と同じ形式で策定。これは、「1.地域適応計画改定のきっかけ」で見られたように、旧計画の年限に伴い改定が必要となり、旧計画は地域適応計画を実行計画の一部として策定していたことから、単独計画として分割の手間をとることはなく、同じ形式で改定を行ったものと考えられる。
  • また、単独計画から実行計画の一部へ形式が変化した事例が2件あるが、これは、旧実行計画策定後に、気候変動適応法の成立等により地域適応計画を単独で策定したが、旧実行計画の年限やゼロカーボンシティ宣言等の状況変化により実行計画の改定が必要となったことから、そのタイミングで地域適応計画も組み込む形で改定を行ったものと考えられる。

単独計画として策定している場合は、実行計画の一部に組み込むなど、労力の削減につながる計画の改定方法を検討することが考えられる

3.現在・将来に関し、言及する気象要素の新旧変化・その言及の際に活用された資料

この項目について

地域適応計画を策定し、各自治体における取組の進捗状況や気候変化等について情報収集を行う中で、これまで注視していなかった気象要素について注目すべき状況になる場合も考えられます。この項目では、現在及び将来の気象について、計画内で言及される気象要素(気温・降水など)の新旧変化の状況、また、活用された資料について、改定を行った18の自治体の地域適応計画及び7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、「(2)現在気象への言及の際に活用された資料」に関する調査については、複数回答形式のアンケートを行ったため、各項目についてそれぞれ100%が最大となります。

(1)言及する気象要素の新旧変化

18自治体の改定計画の調査結果
表2.現在・将来の各気象要素ごと新旧各計画における採用件数の変化
気温 猛暑日・冬日等 降水(降雪) その他
全体 旧計画 15 12 14 5
+2 +4 +2 +3
改定計画 17 16 16 8
都道府県 旧計画 9 8 8 4
+1 +1 +2 +2
改定計画 10 9 10 6
市町村 旧計画 6 4 6 1
+1 +3 ±0 +1
改定計画 7 7 8 2
結果と分析
  • 計画に記載する現在の気象や将来予測について、各計画において、おおむね、「気温」、「猛暑日等」、「降水」を基本セットとして記載していることが見受けられる。
  • 市町村の「降水」以外の項目で、記載する気象要素の数が、改定計画で多くなっている。これは、旧計画策定後に各自治体で気象等に関する情報収集が進んだこと、参照できる他自治体の計画が増えたこと、環境省や気象庁など国機関等において公表された情報が増えたことなどが一因と考えられる。
  • また、「その他」の項目として、「積雪」や「海面水温」などが追加されており、これは地域の特徴や状況を踏まえた要素の追加であると考えられる。

計画に記載する気象要素は「気温」「猛暑日等」「降水」を基本に、自治体の特徴等と関連する要素(積雪など)の追加が望ましい

(2)現在気象への言及の際に活用された資料

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図2.これまでの気候・気象(気温・降水量等)の観測情報の整理の際に活用された資料
図2.これまでの気候・気象(気温・降水量等)の観測情報の整理の際に活用された資料
結果と分析
  • これまでの気象の観測情報の整理の際に活用された資料としては、アンケートの対象とした7都道府県のすべてにおいて気象庁の日本の各地域における気候の変化の資料を活用
  • また、都道府県・市町村のいずれにおいても、気象庁の過去の気象データのダウンロードサービスを活用している
  • その他、所在する都道府県や近隣自治体の地域適応計画を活用した事例もあるが、おそらく、それらの計画においても、気象庁のデータを活用して記載されているため、これらの事例も間接的に気象庁のデータを活用しているものと考えられる。

気象庁がまとめている資料や、気象庁のホームページから観測データをダウンロードして活用することで、これまでの気候・気象の観測情報の整理を行うことができる

4.将来気象の予測の際に活用された資料

この項目について

適応策の検討を行う際には、将来気象の予測を行い、どれだけの影響が生じ得るかを把握することが必要となります。一方で、1自治体では将来気象の予測等を行うことは難しいことから、各省庁等が公表している資料を引用することが労力の削減にもつながります。

この項目では、将来気象の予測(文献の引用)に関し、活用された資料について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式のアンケートを行ったため、各項目についてそれぞれ100%が最大となります。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図3.将来の気候・気象(気温・降水量等)の予測情報の整理に活用された資料
図3.将来の気候・気象(気温・降水量等)の予測情報の整理に活用された資料
結果と分析
  • 将来の気候・気象の予測情報の整理の際に活用された資料としては、アンケートの対象とした都道府県の多くが気象庁の日本の各地域における気候の変化の資料を活用していた。
  • その他、気象庁の地球温暖化予測情報や〇〇地方の地球温暖化予測情報、気象庁等の日本の気候変動2020などの資料が活用されていた。
  • 一部自治体においては、業者委託により将来予測データを入手していた事例も見られた。

気象庁等がまとめている資料を活用することで、将来の気候・気象の予測情報の整理を行うことができる

5.気候変動影響の整理に活用された資料

この項目について

適応策の検討に当たっては、その自治体内の気候変動の現在や将来の影響を把握・整理し、対策を検討していくことが必要となります。

この項目では、気候変動影響の整理に活用された資料について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式のアンケートを行ったため、各項目についてそれぞれ100%が最大となります。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図4.これまで及び将来の気候変動影響の整理に活用された資料
図4.これまで及び将来の気候変動影響の整理に活用された資料
結果と分析
  • 影響の整理の際に活用された資料としては、気候変動影響評価報告書及び国の適応計画、A-PLATの気候変動の観測・予測データの活用割合が高かった
  • 特に、アンケートの対象とした7都道府県では、すべてが気候変動影響評価報告書を活用していた。
  • また、特徴的な回答として、「その他の資料・文献等」の中で、「庁内関係課へのアンケート」「庁内会議での意見」というものが見られた。件数は少なかったが、各自治体の庁内関係課は、適応策の各分野に関連する情報を有している可能性が非常に高いため、関係課へのアンケートは有効な手段であると言える。

気候変動影響評価報告書や国の気候変動適応計画から、各自治体(』関連する情報を引用しつつ、庁内でも情報を収集し、整理を行うことが望ましい

6.適応策の対象とする分野の新旧変化・重点分野の選択等に活用された資料

この項目について

適応策の対象分野については、その自治体の状況等を踏まえたうえで、どの分野に重点的に対処すべきかを検討していく必要があります。

この項目では、改定された18の地域適応計画について対象分野の新旧変化の調査を行った結果及び、うち14自治体に対し分野選択の際に活用した情報に関するアンケート調査を行った結果を示します。

なお、各地域適応計画において、重点分野を別途立てている一部計画を除き、適応策を講じるべき分野≒重点分野としてとらえられていることから、この項目においても同様に扱うものとします

(1)適応策の対象とする分野の新旧変化

18自治体の改定計画の調査結果
表3.適応策の対象とする分野の新旧各計画における採用率の変化
農業・林業・水産業 水環境・水資源 自然生態系 自然災害・沿岸域 健康 産業・経済活動 国民生活・都市生活
全体 旧計画 83.3% 66.7% 83.3% 100.0% 94.4% 44.4% 44.4%
改定計画 100.0% 89.9% 94.4% 100.0% 100.0% 77.8% 77.8%
都道府県 旧計画 100.0% 81.8% 90.9% 100.0% 100.0% 81.8% 81.8%
改定計画 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 81.8% 81.8%
市町村 旧計画 57.1% 42.9% 71.4% 100.0% 85.7% 28.6% 71.4%
改定計画 100.0% 71.4% 85.7% 100.0% 100.0% 71.4% 71.4%

※オレンジ色の網掛けは採用率が上昇したことを示し、より濃いオレンジ色の網掛けは、30ポイント以上採用率が上昇したものを示す。

結果と分析
  • 新旧変化を見ると、全体として、対応分野が増加する傾向を示している
  • 特に、全体として「産業・経済活動」、都道府県では「国民生活・都市生活」、市町村では「農業・林業・水産業」の選択率が大幅に上昇している
  • これは、旧計画策定後に、各自治体において、対象としていなかった分野についても、影響に関する情報収集が進捗したことや、他の自治体における計画策定が進み、こうした分野における適応策の事例が出てきたことなどにより、新たに追加すべきと判断されたものと考えられる。

各自治体における影響評価等を踏まえ、これまで対象としていなかった分野についても、改定計画においては対象とすべきか否かを検討することが必要

(2)重点分野の選択等に活用された資料

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図5.影響評価の実施/優先度の高い分野の特定に活用された資料
図5.影響評価の実施/優先度の高い分野の特定に活用された資料
結果と分析
  • 重点分野(適応策を講じるべき分野)の選択の際に活用された資料としては、気候変動影響評価報告書、または国の適応計画の割合が他の資料に比べて圧倒的に多い
  • これは、これらの資料は、我が国における適応策の方向性等を示す資料であり、地域適応計画の全国版とも言える資料であることから、各自治体において、適応策に関する最新の状況等の情報を得るために活用されたものと考えられる。

重点分野の選択に当たっては、国の適応計画等から最新の状況等の情報を収集したうえで、不足する情報を各省庁等が発表している情報から得るなどし、各自治体の影響評価等も踏まえ、検討する必要がある

7.適応策の新旧変化・適応策検討の際に活用された資料

この項目について

地域適応計画の改定を行う場合、各自治体の状況の変化等を整理・分析したうえで、それに対処するために適応策を強化する必要性が生じる場合が考えられます。

この項目では、具体的な適応策ごとの新旧変化について、改定を行った18の自治体の地域適応計画における適応策の新旧変化を、さらに、そのうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

(1)適応策の新旧変化

18自治体の改定計画の調査結果
表4.地域適応計画における適応策の大項目別掲載計画数の新旧変化
分野 大項目 旧計画 改定計画 増減
農業・林業・水産業 全般 0 0 +1
農業 15 17 +2
林業 6 12 +6
水産業 10 13 +6
水環境・水資源 水環境 7 14 +7
水資源 10 16 +6
自然生態系 全般 10 13 +3
陸域生態系 8 11 +3
淡水生態系 2 5 +3
沿岸生態系 3 5 +2
その他(生物季節、分布・個体群の変動) 3 8 +5
生態系サービス 1 1 -
自然災害・沿岸域 全般 3 3 -
河川 15 17 +2
沿岸 9 11 +2
山地 12 14 +2
その他(強風、市民の防災意識等) 7 8 +1
健康 暑熱 18 18 -
感染症 13 15 +2
その他(温暖化と大気汚染の複合影響等) 3 7 +4
産業・経済活動 全般 5 9 +2
エネルギー 2 4 +3
観光業 6 9 +1
その他(適応ビジネス等) 2 3 +9
国民生活・都市生活 都市インフラ、ライフライン等 4 13 +9
文化・歴史などを感じる暮らし 1 1 -
その他(暑熱による生活への影響等) 7 12 +5
その他 その他(分野横断、普及啓発等) 4 9 +5

※黄色網掛けは5件以上増加したもの

結果と分析
  • 地域適応計画に記載された適応策の新旧変化を見るために、国の適応計画に示された7分野の下位分類に当たる「大項目」別に、掲載されている計画数を新旧で示した。その結果、改定計画では、多くの大項目で掲載された計画数が増加している。特に、上表中黄色網掛けの大項目で増加が顕著である。
  • また、改定計画に掲載された特徴的な適応策として、適応ビジネスの創出や、太陽光発電設備や蓄電池の導入促進など緩和策とのシナジーも得られるような施策が見られる。さらに全体的に具体性が向上した適応策が多々見られる。

これまで適応策の対象としていなかった分野だけでなく、大項目、小項目も含めて、各自治体の状況を踏まえ、適応策の検討を行うことが望ましい
また、これまでから講じてきた適応策についても、より効果的なものとなるよう精査を行うことが望ましい

(2)適応策検討の際に活用された資料

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図6.適応策の検討に活用された資料
図6.適応策の検討に活用された資料
結果と分析
  • 適応策の検討に活用された資料としては、国の選応計画の割合が他の項目に比べて圧倒的に高い
  • これは、我が国における適応策の方向性等を示す資料であり、地域適応計画の全国版とも言える資料であることから、各自治体において、計画の改定に当たり、適応策に関する最新の状況等の情報を得るために活用されたものと考えられる。
  • また、市町村においては、所在する都道府県や近隣自治体、同規模の自治体の地域適応計画も参照される割合が比較的高くなつている。基礎自治体である市町村においては、都道府県の動向や、同規模の自治体がどのような取組を行っているかを参照することは有用な情報が得られることを示しているものと考えられる。

適応策の検討に当たっては、国の適応計画等から最新状況等の情報を収集することが必要また、市町村においては、所在する都道府県の計画を参照し、都道府県の計画からさらなる深堀りが考えられる、またはより地域性の高い分野や対象に注力することなども考えられる

8.進捗管理指標の新旧変化

この項目について

地域適応計画に基づく取組を推進し、その進捗状況の評価や市民への見える化を図るためには、指標を設定し、定期的にその状況を評価することが望まれます。

この項目では、指標の設定に関する新旧変化について、18自治体の改定計画こついて調査を行った結果を示します。

18自治体の改定計画の調査結果
表5.進捗管理指標が設定された計画数の変化
指標あり 指標なし
旧計画 3 15
+3
改定計画 6 12

改定計画に導入された指標の例

  • 高温耐性品種の作付面積
  • 希少種モニタリング実施回数
  • イベントにおけるエコカーを活用した給電に関する啓発活動の実施数(累計)
  • ファミリータイムラインの作成(累計)
  • 土砂災害警戒区域内での死者数
  • など
結果と分析
  • 進捗管理指標に関する新旧変化を見ると、改定後に新たに指標を設定した自治体が3件あった。また、改定計画に導入された指標を見ると、旧計画よりも具体性が向上したものが多く見られる。
  • さらに、アンケート結果においても、指標の設定がないことで進捗管理上の課題を感じている自治体もあったことから、計画の実行性を高めるためにも、指標の設定は必要なものであると考えられる。
  • 一方で、改定計画においても、指標が設定されているものは3分の1程度と、指標設定には課題が残っているものと考えられる。

計画の実行性を高めるためにも、他の自治体の事例も参考にしつつ、進捗管理指標の設定を検討することが望ましい

9.その他、地域適応計画改定の際に参考にした資料

この項目について

この項目では、これまでに見てきた情報以外に、地域適応計画の改定に当たり参考にした情報について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式のアンケートを行ったため、各項目についてそれぞれ100%が最大となります。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図7.その他、計画の構成、検討の進め方など、7.以前の項目以外で参考にした情報等
図7.その他、計画の構成、検討の進め方など、7.以前の項目以外で参考にした情報等
結果と分析
  • 地域適応計画の策定に当たり、これまで見てきた情報以外に参考にされた情報としては、特に都道府県においては、地域気候変動適応計画策定マニュアルの割合が100%となっており、市町村においても、比較的高い割合となつている
  • また、その他として、気候変動適応センター主催の研修会や業務委託を行った例などが示されている。

地域気候変動適応マニュアルには、計画策定のSTEP等が掲載されており、計画の改定に当たっても必要な手順や押さえておくポイントが分かりやすくまとめてあるので、―読することが望ましい

10.独自の情報収集・改定内容検討等の手法

この項目について

この項目では、各自治体において、地域適応計画の改定に当たり、独自の手法等を取り入れた点について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式のアンケートを行ったため、すべての回答の和は100%を超えます。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図8.地域適応計画の改定を行う中で、自治体独自の手法等を取り入れた点など
図8.地域適応計画の改定を行う中で、自治体独自の手法等を取り入れた点など
結果と分析
  • 最も多かったのが、有識者会議を組織し、専門家の意見を計画に反映した、というものである。各自治体における環境審議会等での議論は一般的な手法であるが、その中で、「その他」の項目にある環境審議会委員に適応策関連の有識者を採用したという点は適応策の議論を進めるうえで効果的であると考えられる。
  • その他、割合は少ないが、大学等との連携によるデータ収集や市民参加型のワークショップの開催、市民アンケートなどの事例が見られた

計画改定の議論を進めるためには、環境審議会等に適応策関連の有識者を委員に採用することや、市民参加型ワークショップの実施等による議論の手法が考えられる

11.改定計画として留意した点・重きを置いた点

この項目について

この項目では、旧計画での経験がある上での改定という点で、改定だからこそ留意した点や重きを置いた点について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
表6.新規策定ではなく改定だからこそ留意した点や重きを置いた点
都道府県 市町村
  • 新たに気候変動影響の評価についての記載を追加
  • 最新の科学的知見(将来予測データ等)を反映し、自治体の主要産業や特に大きな影響を受ける分野を踏まえ、適応策7分野をより重要度が高いものから順に整理
  • 旧計画策定以降、地域の自然的・社会的要件に応じて特に注力して取り組んできたもので今後も一層の取組みが必要なものについては、「国民生活・都市生活」などの国の適応計画上の分類に含めるだけでなく、地域の特徴として重点的に取り組む項目に整理して記載
  • 適応策を取りまとめ、個別に作成していた「気候変動への適応に係る影響・施策集」を、計画の別冊として位置付け
  • 旧計画では抽象的な施策が多かったことから、具体的な施策を整理し、重点的に取り組む施策(指標設定を含む)を明確化
  • 市民アンケートによる「気候変動適応策の認識度」が低かったことから、適応策の理解醸成を促進するための普及啓発を推進する内容を盛り込んだ
  • 適応計画の推進のための各主体の役割や推進体制を整理
  • 最新の予測情報等を入手することに留意
  • 気候変動影響調査や将来予測を実施し、その結果を計画に反映することで、市民が気候変動を自分事として捉えて行動してもらえることに留意
  • 分野別対策の検討に先立ち、国及び県の影響評価結果より、既に現れていると考えられる影響及び将来生じることが予測される影響を整理し、旧計画において定めた適応策に関する基本的な考え方や地域特性等を踏まえ、取組分野を選定
  • 旧計画よりも適応策を充実させることに留意
結果と分析
  • 改定計画として留意した点等として大きく3つ挙げられた。
  • 1つ目は、地域の状況を踏まえた国の適応計画に示された7分野の重要度の整理、7分野に限らず地域の特徴として取り組む項目の整理など、各自治体における重要度の整理に関する事項
  • 2つ目は、市民に自分事として行動してもらえることや市民の理解醸成など、市民意識に関する事項
  • 3つ目は、指標の設定を含む重点施策の明確化に関する事項
  • これらはいずれも、地域適応計画の実行性を高めるために重要なポイントであると考えられる。

計画の実行性を高めるためには、市民の理解や行動を促す方策や指標の設定、重点的に対応すべき項目の明確化等について検討を行うことが望まれる

12.直面した課題/解決に向けた工夫等

この項目について

この項目では、計画の改定作業を行う中で、課題と感じた点やその解決に向けて工夫した点等について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
表7.地域適応計画の改定を行う中で苦労した点やその解決に向けて工夫した点等
課題
都道府県 市町村
  • 適応の情報収集に苦労した
  • 自治体内に適応に関する有識者がおらず審議会において適応関連の意見が少なかった
  • 各分野の影響及び適応策について他部局から新たなものが出てこなかったため、まだ庁内における適応への理解、意識が薄いこともあり、もっと適応策担当部局から働きかけていく必要性があると感じている
  • 適応分野は、関係部局が多岐にわたり、基本的な考え方や計画策定時にやり取りした内容の認識共有が難しい。庁内組織を設置し、毎年進捗管理していてもこのような課題は起こる。そのため、会議において他部局に取組発表を依頼するなど、継続的に当事者として認識を持ってもらうための仕掛けが必要
  • 影響及び適応策に関する関係部局の理解醸成に時間を要する(理解が得られにくい)ほか、連携体制を維持することに苦労
  • 各部局における取組のとりまとめ
解決に向けた工夫
都道府県 市町村
  • あらかじめ担当課で素案を作成の上、複数回にわたり関係部局と調整を行うことで関連部局と合意形成を図った
  • 適応策の具体的な例示を示すことで、関係部局の理解が醸成され関係する取組を掘り起こすことができた
  • 適応計画策定には、関係部局の協力が不可欠も、関係部局がーから作業するのは非常に大変であるため、市の関連計画から適応策に該当する施策の洗い出しや、他自治体の情報収集を行うなど、ある程度の作業を担当部局で行うとともに、対面での打合せを繰り返し行うことで、関係部局の理解を得ることができた
  • 他の自治体の事例や都道府県計画での記載、国の資料等により関係部局に説明を行い理解を得られた
結果と分析
  • 苦労した点としては、関係部局との認識共有や当事者意識をもってもらうことの難しさに関する事項が多数
  • 適応策は関連分野が多岐にわたり、関係部局との連携が極めて重要となるが、関係部局の理解不足や業務に気候変動に関する事項が浸透していないため、連携して適応策を検討する際の障壁となっていることが考えられる。
  • 解決策としては、担当課で素案を作成し、繰り返し対面での打合せを行うことで関係部局の理解を得ることができたという事例が示されている
  • また、関係部局に適応策の具体的な例示を示すことで、理解が得られたという事例も示されている

適応計画の実行性を高めるためには、関係部局との連携が重要となるため、適応策の具体例も示しつつ、対面での打合せを繰り返し行うなど、関係部局の理解醸成を図る必要がある

(参考)旧計画策定の際に参考にした資料

この項目について

この項目では、旧計画策定の際に参考にした資料について、改定を行った18の自治体のうち、7都道府県と7市町村へのアンケート調査を行った結果を示します。

なお、複数回答形式のアンケートを行ったため、すべての回答の和は100%を超えます。

計画改定を行った14自治体へのアンケート調査結果
図9 .改定した内容(対象分野・項目、優先度、進捗管理指標など)に関して、改定する以前(旧計画策定時)に特に参考にしていた情報 ※担当者の異動等で不明なものを除く
図9 .改定した内容(対象分野・項目、優先度、進捗管理指標など)に関して、改定する以前(旧計画策定時)に特に参考にしていた情報
※担当者の異動等で不明なものを除く
結果と分析
  • 旧計画策定の際に参考にしていた資料を見ると、中央環境審議会の意見具申や国の適応計画なと環境省に関連する資料と、気象庁の公開している資料の活用割合が非常に高い。
  • おそらく、これらの資料をベースに計画へ記載していく情報を整理したうえで、不足する情報について、関係省庁の資料や近隣自治体の計画等を参照することで補っていたものと考えられる。
  • 計画の改定の際にもこれらの傾向は変わっていないものと考えられる。

地域気候変動適応計画策定・改定の参考事例

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